aikoの歌詞世界に見る健気でまっすぐな女性の理想像
ザ・女性シンガーソングライターとして長い間第一線を走り続けるaiko。
彼女の歌詞は突き抜けるほどの女性目線。そこにはまっすぐで健気な女性像が見えてきます。
「カブトムシ」の歌詞解説には諸説ありますが、基本的には筆者は恋人同士の設定を想像しながら男目線も交えながら紐解いていきます。
「カブトムシ」の文学を匂わせる歌詞
言葉に出来ない想い
悩んでる身体が熱くて 指先は凍える程冷たい
「どうした はやく言ってしまえ」 そう言われてもあたしは弱い
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko
伝えたいことがあるのに伝えられない、もどかしい感情が深く伝わってくる歌詞です。
中身はアツくなるほど伝えたい想いがあるのに「指先は凍えるほど冷たい」。
つまり、外側にはうまくその熱が伝えられない、言葉にできない、そんな女性の不器用な部分が描かれています。
ここで素晴らしいのは「身体」「指先」「熱くて」「冷たい」という具体性のあるキーワードが入っていることです。
「身体」「指先」はその感情がどこから来るものなのかを指すことで具体性を持たせています。
そして「熱い」「冷たい」は人間の感情を表わす抽象語ですが、ここでは物理的な体感温度として使われているのです。
つまり「身体」「指先」という具体と「熱い」「冷たい」という抽象を組み合わせて立体的な心情表現になっています。
安易な心情語、すなわち「寂しい」とか「もどかしい」とかを使わずに女性の内面を表現しているのではないでしょうか。
老いと死に見られる「今」の大切さ
あなたが死んでしまって あたしもどんどん年老いて
想像つかないくらいよ そう 今が何より大切で…
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko
今、この瞬間が大切だということを「君がいないと」とか漠然とした事柄よりも「死んでしまうこと」や「年を取ってしまうこと」の現実的なことを引き合いに出すことでよりリアルに大切さを表現しています。
ここでも素晴らしいのは「生老病死」という人間の大事な要素の中で「老」と「死」を持ち出していることです。
人間の根本的な欲求は2つあり、1つが「メリットを得ること」ともう1つが「デメリットを回避すること」にあります。
そして、その中でも人間が緊急性を感じるのは後者の「デメリットを回避すること」にあるのです。
その観点から歌詞を見ると、実は「死んでしまうこと」「年老いてしまうこと」は「デメリット」になります。
これらを回避するためにも今を大切にして生きようという逆説的なアプローチが絶大なインパクトを与えるのです。
生き急いでいるかのような切迫感がこの短いフレーズの中に過不足なく凝縮されています。
炸裂する女性のロマン
白馬の王子様
スピード落としたメリーゴーランド 白馬のたてがみが揺れる
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko
ここで独特な世界観が爆発します。
やはり白馬と言えば「王子様」ではないでしょうか。
たてがみを揺らし走ってきたあたしだけの王子様がスピードを落として自分の前に止まってくれる、と思うと素敵な歌詞に見えてきます。
この辺りは少女漫画の王道のような世界観ですが、それを遊園地のアトラクションに喩えています。
感情で表現すると嘘くさくなってしまうのを現実の物体や遊具でシンプルに表現することでリアリティを生み出すのです。
女性がカブトムシなら男性は?
少し背の高いあなたの耳に寄せたおでこ
甘い匂いに誘われたあたしはかぶとむし
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko