1週間限定公開のLIVE映像
一瞬の儚さ
今回ご紹介するのは、ぼくのりりっくのぼうよみ(=ぼくりり)の「人間辞職」という楽曲。
2018年10月30日に1週間限定でLIVE映像を公開し、リスナーを圧倒しました。
透き通るような声と、まるで語っているかのような素晴らしい表現力。
優しく繊細な裏声。
まさに鳥肌物の映像となっています。
残念ながら現在ではMVの公開期限が過ぎて削除されてしまいました。
しかし、その一瞬の儚さが芸術性を生み出しているのかもしれません。
ぼくりりはステージに立った途端に素晴らしい存在感を放つのが魅力。
通常の会話では感じられない「オーラ」を放ち始めるのです。
それがヒシヒシと感じられるMVといえました。
「天才」をやめると決めたぼくりり
タイミングの一致にはどんな意味が?
ぼくりりはとあるドキュメンタリー番組で「天才」をやめることを表明しました。
ぼくりりは「天才」と言われることに疑問を抱くようになりました。
そして、アーティストとしての自分を手放すことを望むようになります。
2019年1月をもって一切の音楽活動をやめることを決意したのです。
「人間辞職」が公開されたのは、まさに終わりへのカウントダウンが始まっている時期。
ぼくりりのアーティストとしての「辞職」とタイミングが非常に合います。
終わりを見据えて発表したこの楽曲にはどんな意味が込められているのでしょうか?
ファンにとってはとても気になる作品であるはずです。
周囲とのギャップに悶える
自分の特異性を自覚
頭を過る言葉の中には
あからさまに人を辞すべきもの
I don’t know
But I don’t know
出典: 人間辞職/作詞:ぼくのりりっくのぼうよみ 作曲:ぼくのりりっくのぼうよみ
これは自分の価値観や思考と、世間一般での常識とのギャップを表現していると思われます。
素の自分の感覚のままでは社会には受け入れてもらえない。
社会に合わせて抑え込むこともできない。
でも、自分を押し通すという選択肢を選ぶつもりもない。
だから自分は「人」であることを諦めて「辞職」する。
そんな思考なのだと思います。
社会で淘汰され、それでも生まれ持った個性は変えることができなかったのでしょう。
必死に居場所を求めた結果、見つけ出した答えなのだと筆者は解釈しました。
ぼくりりの楽曲では自分の「特異性」に注目した歌詞が多い気がします。
これが彼が音楽を通して表現したいものなのではないでしょうか。
人生を振り返る
知る由もないの
五尺五寸の上からしか見えない
不適切な人生を送りまして
不徳の致すところ甚だしく
I don’t know
But I don’t know
出典: 人間辞職/作詞:ぼくのりりっくのぼうよみ 作曲:ぼくのりりっくのぼうよみ
「五尺五寸」は151.5cmのこと。
1人の人間の身体のことを「五尺の身」と表現したりします。
それに対して、ぼくりりの身長は164cm。
「五尺五寸」の人よりもよりも目線が上の位置にありますね。
ここではそれをネガティブな意味合いで用いている印象を受けます。
「高みの見物をしている」「成功者の立場から見下ろしている」「上から目線で物事を捉えている」。
リスナーからするとそんな印象は受けないはず。
自身の経験の中でそう実感する場面があったのかもしれません。
あるいは誰かに言われたのかもしれませんね。
そして「模範的ではない人生であった」と振り返っています。
外の世界との摩擦を、全て自分の中に溜め込んでいる印象です。
苦痛を伴いながら生きる
知る由もないの
この目を通さないと何も見えない
生きてはいたい 生きてはいたい
人間でなくても 人間でなくても
出典: 人間辞職/作詞:ぼくのりりっくのぼうよみ 作曲:ぼくのりりっくのぼうよみ
「目」とは、そのままの意味合いではなく比喩表現だと思います。
「色眼鏡」という言葉があるように、受け取った情報はその人の認知の仕方次第で変化するでしょう。
人によっては「フィルター」がかかって情報が少なくなったり…。
実際よりも「色が足されたり」ということもあります。
この物事の捉え方の違いがいわゆる「価値観の違い」なのかもしれません。
この楽曲では社会との「価値観の不一致」に悶えています。
自分の認識が誤っていると思って目を閉じても、今度はそもそもの景色が見えなくなってしまう。
自分の価値観が誤っていると思って心を閉じても、社会から分断されて一人孤独になってしまう。
自分の存在が誤っていると思って命を絶っても、生きることができなくなってしまう。
そんな考えから、後半のフレーズでは「生きること」を渇望しているのだと思います。
その結果、自分が誤っていても仕方ないと思って生きていくしかありません。
誰かにそれを指摘されても。
人と馴染めなくても。
「不一致」を抱えながら人生を全うしようと考えているのです。