写真に写っているのが誰なのかは言及されていませんが、おそらく主人公と、青春時代の恋人なのでしょう。

そして当時の恋人はもう、現在の主人公の恋人ではない。

だからこそ、元恋人に未練がある主人公は、将来の別れも葛藤も知らず無邪気に笑っている過去の自分を「憎らしい」とまで思います。

もしくは、恋人と純粋に愛し合っている当時の自分に、ただただ嫉妬しているのかもしれませんね。

青春の後ろ姿を
人はみな忘れてしまう
あの頃のわたしに戻って
あなたに会いたい

出典: あの日にかえりたい/作詞:荒井由実 作曲:荒井由実

青春時代の思いや気持ちを、人はどんどん忘れていきます。

主人公自身も、当時のように純粋ではなくなった自分に気づいているのでしょう。

失われていく純粋さ

「青春の後ろ姿」というのは、大人になるほど遠く離れていく過去の自分や、幼い自分が失われていくことの比喩と考えられます。

青春時代の、無邪気だった自分に戻りたい。

そして純粋な気持ちのまま、もう一度あの頃の恋人に会いたいと、主人公は願っているのです。

暮れかかる都会の空を
想い出はさすらってゆくの
光る風 草の波間を
かけぬけるわたしが見える

青春の後ろ姿を
人はみな忘れてしまう
あの頃のわたしに戻って
あなたに会いたい

出典: あの日にかえりたい/作詞:荒井由実 作曲:荒井由実

現在の主人公は、都会で暮らしている。

けれどおそらく、青春時代を過ごしたのは、今いる都会とは別の場所だったのでしょう。

夕暮れの都会で見た景色が、ふと思い出の景色とオーバーラップします。

思い出の面影を見つけた主人公

都会の景色の中に、思い出の面影を見た主人公は、過去の出来事を思い出します。

思い出に似た景色の中に、ほんの一瞬で過ぎ去ってしまう青春を、全力で走った自分の姿が映る。

かけぬける」というのはやはり、遠くなっていく思い出・過去の自分、そして戻らない時間を表していると解釈できます。

サビは1番と同じ歌詞の繰り返しです。

今愛を捨ててしまえば
傷つける人もないけど
少しだけにじんだアドレス
扉にはさんで帰るわあの日に

出典: あの日にかえりたい/作詞:荒井由実 作曲:荒井由実

最後はサビのメロディーに乗せて、新たな歌詞が書き足されています。

主人公はただ過去を思い出すだけではなく、昔の恋人の家へと向かい、今の自分の家の住所を残していくのです。

まだ携帯電話が普及していない時代ですから、アドレス=自宅の住所ととらえていいでしょう。

別の「愛する人」の存在

愛を捨てる、傷つける人という表現から、主人公が昔の恋人を思うことで、傷つけてしまう人がいると分かります。

元恋人には「今」愛する女性がいるのでしょう。また主人公自身にも、恋人や夫がいるのかもしれません。

自分が昔の恋人への思いを断ち切れば誰も傷つけずに済む。

けれどそれをできない主人公は、アドレスを知らせることで、あの日…つまり恋人と過ごした青春の日々に帰ろうと決めたのです。

アドレスが滲んだワケ

アドレスが滲んでいたのは、主人公が涙を流したためでしょう。

青春時代の思い出が蘇り、手紙にアドレスを書きながら感傷的な気持ちになっていたのかもしれません。

もしくは、もう昔の自分には戻れないと察して泣いていたとも考えられます。

純粋だった自分との決別

主人公は傷つける人がいると分かっていながら、恋人と復縁して、昔に帰ろうとしている状況です。

しかし青春時代の純粋な自分だったら「人を傷つけても」なんて、きっと考えもしなかったはず。

例え恋人ともう一度愛し合えたとしても、本当に昔の自分と変わらないまま「あの日に帰る」ことはできないのです。

主人公はそれに気づいたのでしょう。

昔の自分にはもう戻れないと分かっていながらも、やはり思いは捨てられず、昔の恋人の家に向かうのです。

変わってしまった自分への涙が、アドレスを滲ませたのかもしれません。