舞台を鑑賞していないと分かりづらいコンセプトアルバムという訳ではなく、本格的ラップ初挑戦の曲が入るなど、これまでと異なったカラーではあるものの、むしろ親しみやすい1枚です。
「はじめての森山直太朗」として体験するのも一興という作品ではないでしょうか。
初回限定盤には2枚組DVDが付属します。収録内容は劇場公演「とある物語」本編と、特典映像の森山直太朗と森山の共同制作者である御徒町凧のスペシャル対談です。
19thシングル「日々」
1.日々
2.話がしたい feat.鎮座DOPENESS, Escar5ot
3.触ってごらん
出典: 日々/森山直太朗
改めてレコーディングした表題曲と、表題曲同様、劇場公演で歌われた森山初の本格ラップ曲「話がしたい」、そして未発表曲「触ってごらん」の3曲が収録されています。
「日々」MVで七変化
「日々」のMVには芸人コンビ「おぎやはぎ」の矢作兼が出演しています。おぎやはぎと言えば小木博明が森山の義兄であることが知られていますが、今回の出演は森山の義兄「ではない」方です。
矢作の出演は森山からのオファーで実現したとのことで、森山は「日々」で歌われる「ありふれた日々」と、矢作の佇まいがぴったりで矢作しか考えられなかったとコメントしています。
矢作が映像の主人公として出演する一方、森山自身も出演しています。その姿、何と七変化です。
ぼんやり見ていると見逃してしまう「7人の森山直太朗」を探してみるのもおもしろい鑑賞法です。「日々」という曲を楽しむだけでなく、「直太朗探し」も楽しんでみてください。
七変化の答えを本稿末尾に記しておきますので、探した方は答え合わせしてくださいね!
「日々」の歌詞を読み解く
「とある物語」の要とも言える「日々」は主人公の少年の心象を歌うものであり、その未来を示唆するものでもあります。
森山と脚本の御徒町凧が紡ぎ出した少年の一面を、特定された「ある人物」の像としてではなく、一般普遍のものとして読み解いてみましょう。
なす術もなく
ありふれた日々の中で 君は眠っていた
暗闇に影を潜めながら 明日を待ちわびていた
色のない夢の狭間で 僕はしゃがんでいた
頼りない声震わせながら 数を数えていた
出典: 日々/作詞:森山直太朗・御徒町凧 作曲:森山直太朗・御徒町凧
変わり映えのない日常の中で、日常に魅力も見出せず、「君」も「僕」もほとんど何もできずにいたことが、ここでは語られています。
「眠っていた」「明日を待ちわびていた」とは、じっとして、漫然と時を過ごしていたということでしょう。具体的な行動をしていない状態です。
「しゃがんでいた」「数を数えていた」というのも似た境遇を表しています。「しゃがむ」というのは一時的な姿勢をとることです。落ち着いた状態、腰を据えたではありません。
「数を数える」のは単調な作業で、これも漫然としたものです。
これを、「君」は「暗闇に影を潜めながら」、「僕」は「頼りない声震わせながら」していました。どちらも心許ない状態であることが分かります。
不安でいながら何もなすことなく、明るい未来をただ待っている「君」や「僕」です。
はるかひとりぼっち
遠い日の夕映えに染まるモノローグ
泣いている 泣いている心に気付いていた
ありふれた日々を今はただ生きている 雲は流れる
ささやかな夢を描いてる 否が応でも
出典: 日々/作詞:森山直太朗・御徒町凧 作曲:森山直太朗・御徒町凧
キーワードは「モノローグ」です。ひとりごと、独白。誰かとともにすることではありません。遠い日に、ひとりぼっちで心は泣いていたのです。
遠い日は心細くてひとりで泣いていました。いまはありふれた日々をただ生きていると歌っています。