誰にも言えないことを増やした
人らしい心の証明
ねえ ボクはこんなんさ わかってよ
嫌ってもらっても構わないや
恨んでくれないか君も
ボクを覚えてくれましたか?
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
ここまで読み解くと、気まぐれに鳴り出す「君」は自身の心臓のことであるとわかります。
つまり、この曲中で出てくる「君」は、自分自身のことであるともいえます。
どうしようもない感情を、1人部屋の中で心臓に語りかけている曲なのです。
いつか来たる人生の終わりまで、真面目に動き続ける心臓。
嫌っても、恨んでも構わないから、どうかボクの気持ちを分かってほしい……。
そんないたたまれない気持ちが、言葉からにじみ出てくるようです。
救いのない日々
自分以外の人間はみな、幸せそう
愛とか未来とか
どこかで馬鹿にした
耳障りな言葉
どんなに どんなに
強がったって歌ったって
穴開いた両目にあふれていく
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
狭い部屋の外では、人々が愛を確かめ合っています。
ふとテレビをつければ、未来ある若者たちが日々努力しているのが映っています。
それは同時に、夢も希望もない人達を馬鹿にしているようにも聞こえてしまい……。
心の余裕がない主人公にとってそれは、「耳障り」でしかないのです。
形ばかりの希望を歌にしても、それは主人公の本当の気持ちではありません。
まるで穴の開いた箱に水を注ぐかのように、涙となってあふれていくだけなのです。
毎日見る夢はどんな夢?
寂しいよ
もうどうしようもないくらいに
今日に縋ってしまった
失うことが怖くなるような
優しい夢を見ている
ボクを ひともどきと呼ぶ
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
1人で戦うことを、さも当たり前のように頑張ってきた主人公。
しかし、1人ぼっちは誰にとっても寂しいことです。
ふっと思いを巡らせていると、自分が1人であることを思い出す……。
することもなく、ただ天井を見つめる日々が、どうしようもなく寂しいのです。
眠るたびに夢に見るのは、苦しみや寂しさのない世界のこと。
ずっと覚めなければいいと願っても、再び現実に引き戻されてしまいます。
本当は笑っていたいのに
気まぐれに鳴り出す=健康ではない
本来ならば、規則正しく脈打つはずの心臓。
それが「気まぐれに」ということは……決して健康な心臓ではないということです。
主人公はずっと前から、心臓の病気で入院を余儀なくされ、自由のない生活を送ってきました。
自宅よりも高く感じる病室の天井は、自分をよりちっぽけに感じさせます。
常に死を身近に感じながら、明日が来るかもわからない不安な日々。
「笑いたい日々」からは退き、既に諦めてしまっている自分がいます。
何度も死の淵から這い上がってきた
ならば どうか
あのガラクタみたいに
蹴とばして 踏んでくれたならいいのに
出典: ひともどき/作詞:まふまふ 作曲:まふまふ
どうせ治らないならば……。
どうせ助からないのであれば……。
何か大きな力に、ぐしゃっと踏みつぶしてもらえたならば。
ひと思いにいなくなることができたなら、この苦しみや寂しさからも逃れることができるでしょう。
しかし医師たちは、何度も何度も主人公を助けようと奮闘しています。
「楽になる道」はどこなのか、主人公にとっては生き延びることすらも、救いにはならないのです。