性格も才能も好みも全く違う四人のメンバー

彼らは良い音楽を作り出すべく、バンドを組みました。

けれどそんな個性の塊同士が集まれば、ずっと同じ方向を向き続けていくのは難しいことです。

クイーンもまた、そうでした。

バンドを一人の人間に例えるならば、骨や肉がバラバラになってしまいそうな状態でしょう。

鍵となるのは「ビジョン」

しかし、ライブ・エイドのステージで、彼らは恐らく悟ったのです。

このメンバーが生み出すグルーヴのうねりを。

その渦中にいる時の、えも言われぬ気持ちよさを。

そしてそれが大勢の、世界中の人の心を動かし得るものだということを。

ステージにいる時、彼らはきっと音楽の中で「一つ」に結束していたのです。

そしてその体験こそが、彼らに再び「一つ」になる意志を沸き起こしました。

さて、それには何が必要か。

それは四人が「一つのビジョン」を持つことです。

「一つ」になるために

「ゴール」、「使命」、「心」。

曲の冒頭から「一つの」という言葉を冠されたものもの。

それらは、つまり彼らがバンドとして「一つ」であるために「一つ」にしなくてはならないものでした。

「宗教」も、言うなれば信条を「一つ」にするもの。

そう考えると、様々な単語が挙げられていながらも、結局全てはこの一言に集約されるのかもしれません。

そう、タイトルである「一つのビジョン」です。

俺たちは「一つ」だ!

展望、方向性、目指すもの。

つまり「ビジョン」を「一つ」にすれば、素晴らしいグルーヴが生まれる。

そしてそのグルーヴそのものも、バンドが「一つ」になったことの証でしょう。

それはバンドのみならず、国や時代を超えた多くの聴衆すらも「一つ」にするほど強力なものです。

だからこそ「世界的なビジョン」を持とう、と言っているのかもしれません。

けれどこの曲では、世界を「一つ」にすること、それ自体が目的ではないように感じられます。

どちらかといえばそう、音楽を始めたり、バンドを結成した頃の初期衝動に立ち返るような。

音楽の中で「一つ」になることの気持ちよさ。

その原点に戻ってもう一度「一つ」になろうぜ!

そんな風に仲間に呼びかけている、または全員で高らかに宣言しているように聞こえるのです。

欲しいもの、そして「夢」

「One vision」…じゃない!?

Just gimme gimme gimme
One vision

出典: One Vision/作詞:Freddie Mercury,Brian May,Roger Taylor,John Deacon 作曲:Freddie Mercury,Brian May,Roger Taylor,John Deacon

最後のサビはノリのままにボーカルの応酬が続き、こんな歌詞で終わります。

訳は以下の通り。

ただ、俺にくれよ、くれよ、くれよ
一つのビジョンを

出典: One Vision/作詞:Freddie Mercury,Brian May,Roger Taylor,John Deacon 作曲:Freddie Mercury,Brian May,Roger Taylor,John Deacon

ただ、最後のフレーズ、もう一度音源をよーく聞き返してみてください。

一番最後の「One vision」、別の単語に聞こえませんか?

そう、歌詞はタイトルと同じ「One vision」となっていますが、実は歌は違います。

「Fried chicken」(フライドチキン)と歌っているのです。

どうして「フライドチキン」?

「一つのビジョン」を求めていたはずなのに、急に食べ物を欲するとは。

一体どういうことでしょう。

実はこれは「One vision」のリズムにかけて、フレディがアドリブで歌ったものがそのまま採用されたようです。

(スタジオの出前のメニューに載っていたもの、という逸話も残っています。)

ただのノリで曲をシメてしまうなんて、いささか乱暴に思えるでしょうか。

けれどこの「ノリ」を採用していることこそが、彼らのその時の意気を表しているようにも思えます。

そのときのノリが表れている