2人は有線接続により、快感と共に「痛覚」に苛まれることになりました。
さてそうなると「こんな愛」とはどんな愛を意味するのか気になるところです。
そしてなぜ「痛覚」が悪くないと思ったのでしょうか?
ひとつは、それまでの2人の関係性に対する充実感から揺るがぬ愛が育まれていたためとする説。
痛覚さえも2人で共有できれば最高だね、と思うに至ったのかもしれません。
あるいは有線接続されたヤバい感覚を共有していることに対して、痛覚もまた刺激的な愛のスパイスだという解釈。
では「そんな罠」とは?
それまで歌を歌い羽のように軽く繋がっていた状況から一転し、有線接続によるBad songに病んでしまいました。
この事態を「そんな罠」にかかった、と表現したのでしょう。
歌詞3で囚われた「愛の罠」とは違った罠に捕まってしまいました。
それでも悪くないと思えるのは2人の絆の強さが窺えますね。
歌詞8
I'm kinda feeling down.
満たしてこのまま
I'm kinda feeling down.
ここから落として
I'm kinda feeling down.
まだ足りないの
I'm kinda feeling down.
鼓動が蒸している
― 英語詞の和訳 ―
なんか気分下がってるっぽい。
出典: ASH/作詞:Jeremy Quartus,Vaundy 作曲:Jeremy Quartus,Vaundy,Takeru Yamazaki
気分下がってる?
まず目につく英語詞の部分でしきりに「気分が下がってる」と繰り返しています。
またdownは歌詞4におけるbetterと対比させている点が状況の変化を物語っています。
このフレーズが繰り返され、気分が下がっている理由や湧いてくる渇望が語られているようです。
まずは満たしてほしい、と。
その後に「このまま」とあることから、現状が続けば満たされるということでしょうか?
ですが英語のリフレイン部分では「気分が下がっている」のに対しこの時点では矛盾しているように思えます。
次に「ここから落として」と続くのですが、日本語パートだけを続けて読むと実体が見えてきます。
つまりは「満たした上でこのままここから落として欲しい」といっているわけです。
ここで「落とす」とは何を指すかになってきますが、大まかにいえば「意識を落とす」ことだと推測できます。
この満ち足りた今がfeeling downしていくのは受け入れたくない、いっそこのまま意識を落としてしまいたい。
こう思うに至ったのでしょう。
では何によって意識を落とすのでしょうか?
最も手軽で現実的な手段なら睡眠があります。
それから死を選ぶ。
ですが非日常でありながら切羽詰まった状況でもなく、いずれも適切ではないような違和感が僅かに残る解釈です。
ここで思い出されるのがDopeなPitchのフレーズです。
有線接続のヤバい感覚に溺れながら意識を落としてしまいたいと思ったのではないでしょうか?
続く「まだ足りないの」は有線からの供給が足りない、と考えればつじつまが合います。
そして「鼓動が蒸す」というフレーズについてですが、鼓動ならば「鳴る」と表現するのが通例です。
恐らくは鼓動が高鳴る寸前のもどかしい状態であると考えられます。
つまりは「満たしてこのまま意識を飛ばして欲しいのに供給が足りず鼓動が高鳴る寸前に留まっている」のです。
その上で英語のリフレインでは気分が下がっている現状を伝えている、というのであれば…?
ここまでわかればおおよそ解読ができます。
「まだ足りない満たされない」ままfeeling downしていく現状に焦燥しているのではないでしょうか。
この後繰り返される「灰」のフレーズはまさに「ハイにして欲しい」という心情とリンクしてきます。
これは遺書か?
歌詞9
首筋を撫でるみたいに
優しく
Writing down my thoughts
Hope you read my note
Burn it and throw it to the sky
If you find my last page...
― 和訳 ―
首筋を撫でるみたいに
優しく
今俺の想いを書き留めてるんだ
君がこのノートを読んでくれることを願って
こいつは燃やして空に撒き散らしてくれ
俺の最後の言葉を読んだならね…
出典: ASH/作詞:Jeremy Quartus,Vaundy 作曲:Jeremy Quartus,Vaundy,Takeru Yamazaki
彼女へのメッセージ
彼はノートにメモを残したようです。
それはまるでこれから彼は去ってゆき、彼女がノートを読む頃には彼はいない、というような内容になっています。
羽のように軽く結ばれていたあの頃を慈しみ、メッセージを書き綴っているのでしょう。
恍惚の中セピア色に見える景色と共に今ノートに君への想いをしたためているんだ、そんな光景が浮かんできます。
つまりここで「優しく」なったといっているものとは、ペンを走らせる手でもなければ優しげな景色でもない。
2人の絶頂期を偲ぶ彼の想いだったのではないでしょうか?
そして彼はもう二度と彼女に会わないつもりのようです。
ノートは燃やせ、というのは今もう遠く離れてしまった彼にその灰が届いて知らせになるから、といっているのでしょうか?
それとも俺のことは灰にして忘れてくれたらいい、ということかもしれないですね。
灰になっちゃうの?
ここまで読み進めてみると、繰り返し登場する「灰」の印象までもが変わってしまいますね。
灰にして欲しいのはノートだけではない、もしかすると本当に死んで灰にして欲しいのかもしれない、と。
そうだとすれば、彼を死に駆り立てるものとは何でしょうか?
Bad songから抜け出せず、死ぬことでしか逃れられなくなってしまったのか?
でなければ自分が死んで見せることで「お前は間違うな」というメッセージにしたかったのかも?
または絶頂のまま死んでしまいたかった、というのは?
まだ足りないままfeeling downしてしまうことへの焦燥感からBad songを加速させざるを得なくなってしまった。
要するには「ハイのまま灰にして欲しい」というメッセージが込められていた可能性がここで浮上してきます。
いずれにせよページの上では物語に終止符が打たれ、深みを増していく「灰」のフレーズが繰り返されます…。
Did you enjoy the 灰 land?
灰な世界を振り返ってみて
彼女の心の隙間を埋めようとしたのが事の始まりでした。
しかし逆に彼の方が彼女に惹かれてゆき、その愛の罠から抜け出せなくなってしまいます。
ただこの頃はまだ羽のように軽い関係を保っていました。
ある日有線でBad songが流れ始めると痛覚を覚えるも「まだ足りない」とすら思う処まで堕ちていきます。
そして遂には「灰にして欲しい」と思うようになり、遂には彼女と離れ離れになってしまうのです。
思えばサウンドはこの物語のアンニュイな世界観に違わずシックで羽のように軽く。
歌詞の意味を深く考察した後に聴くと驚くほどマッチしていたことがわかりますね。