「ねえ一層遠く知らない街に隠居して沈黙しませぬこと?
こんな日々には厭きたのさ ねえだうぞ攫つて行つて」
逃げ延びて水密桃(すいみつとう)に未練 砂みたいな意識と云ふ次元で
逃げ延びた暑さよ何邊(いずこ)へ 揺れが生じ
出典: 迷彩/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
「水蜜桃」とはシンプルに桃のことと推測します。
古典文学の中で、桃は邪気を払うものとして使われることがあります。
今この現実から逃れるための一投、ということでしょうか。甘く大切にしていたはずのものを一投し、現実から逃れた。
そのことに未練を感じている。”砂みたいな意識”で。
この「砂みたいな」とは、簡単に変わりゆく、と解釈できるのではないでしょうか。
砂は器によって形を変えて、風によって流され、水がしみれば固まりもする。意識も同じように、その環境により絶えず変化していく。
やっと現実から逃れ心を熱くしていたはずなのに、あの時の決心は簡単に揺らぐ。
状況が変われば、意識も変わりゆく
其の儘 怠惰に委ねた 最後の青さ
もう還らないと知つた温度も 超へられぬ夜の恐怖色
境界に澱むでゐた決心の甘さ
たうに喪(うしな)つた岸壁打つは 引いてくれぬ後悔と濤(なみ)の色
出典: 迷彩/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
まず、歌詞の「澱むでゐた」は「よどんでいた」と、そのままの意味です。
現実社会にもううんざりしていて、その怠惰の思い任せに決心した自分は”青かった”。若気の至りや、一時の迷いを、”青”と表したのでしょうか。
そして、夢と現実の間、境界性が曖昧になっていた。
大した決心がついていないままに逃避した見知らぬ街で、今思えば生ぬるかった元居た場所を悔やみ振り返っている。
誤魔化しても、後悔は消えない
待ち侘びて凍る馨(か)は混凝土(コンクリイト) 砂みたいな意識と云ふ器官で
待ち侘びた寒さよ何邊へ 揺れに動じ
此の儘 愛情に模した 修正ペンの白さ
現状を必死で繕つては 剥いだ素肌に恐怖色
傍観に徹してゐた感慨の淡さ
たうに喪つた雷雨仰ぐは 泣いてくれぬ残忍な雲の色
最後の青さ
もう還らないと知つた温度も 超へられぬ夜の恐怖色
境界に澱むでゐた決心の甘さ
たうに喪(うしな)つた岸壁打つは 引いてくれぬ後悔と濤(なみ)の色
出典: 迷彩/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
待ちわびて自ら望んだはずの世界は、あたたかさがなく無機質なコンクリートのよう。
遠く知らない街に飛び込んだ二人が感じたことでしょうか。
続く「修正ペンの白さ」は男性、「素肌」は女性を表すもの、と解釈しました。
愛情をごまかして行為だけ取り繕っても、それを自らも外から眺める傍観者のよう。感情はここにあらず。だけど後悔はやまない。
燃え上がって居たあの時の想いも、逃げた先であたたかさを保てるほど決心は固くなかった、そんな流動的な心情を描いた曲と解釈しました。
あなたはこの曲をどう解釈しますか?
2018年にデビュー20周年
2018年にはデビュー20周年を迎える、椎名林檎。
デビュー10周年記念アルバム「私と放電」から、もう10年が経つのですね……早い。
先日発売された20周年トリビュートアルバム「アダムとイヴの林檎」も必聴の一枚です。
豪華すぎる面々に彩られた椎名林檎の楽曲を聴いて、彼女の楽曲自体の魅力を再発見できることでしょう。
デビュー20周年を迎えて尚、極上の音楽を届けてくれる椎名林檎。
この節目にお祝いの気持ちも込めて、当時の思い出とともに椎名林檎の音楽を味わい直してみませんか?
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