「aurora arc」の輝き

BUMP OF CHICKEN【aurora arc】アルバム全曲解説!儚く揺れる楽曲の美しさに迫るの画像

2019年7月10日発表、BUMP OF CHICKENの通算9作目のアルバムaurora arc」。

前作「Butterflies」から3年5ヶ月のインターバルを置いてリリースされました。

しかしBUMP OF CHICKENはこの間も精力的にシングルなどを発表してきます。

そのため「aurora arc」はたまりにたまった既発表曲でいっぱいになっているのです。

近年のBUMP OF CHICKENの活動の総決算的な意味も大きなアルバムでしょう。

時代を区切ったベスト盤かとも思わされるくらいに豪華なラインナップです。

それでもアルバム一枚すべてとおして聴くと統一感があるのですから驚かされます。

今回はこの「aurora arc」というアルバムの収録曲すべてをサウンドと歌詞の両面で考察しました。

できるだけコンパクトな記事を心がけたいところです。

とはいえBUMP OF CHICKENの充実度がこうした記事の姿勢を許してくれるでしょうか。

語ることでいっぱいになるかもしれません。

この記事はどの順番でどのように読んでいただいても構わないです。

まずは目に入った曲やお気に入りの曲の解説記事だけでも読んでください。

それではオープニングから順にご紹介しましょう。

1.「aurora arc」

アルバムのオープニング・ナンバーかつタイトル・チューンになります。

インストゥルメンタル・ナンバーです。

アルペジオの繊細さに卒倒しそうになるでしょう。

これがBUMP OF CHICKENにとってのオーロラのイメージです。

儚いイメージの楽曲ですが、雄大なビートも響きます。

確かにオーロラは束の間にしか登場しません。

崇高さもあるのでしょうが、何よりそのスケールの雄大さが素晴らしい宏観現象です。

短い楽曲であっても、そこにかけた意図が鮮明な楽曲でしょう。

2.「月虹」

極限まで練られたアレンジ

アイリッシュ・トラッドのようなイントロに驚かされます。

そのまま感動しているといつの間にかBUMP OF CHICKENのハードなロックナンバーになるのです。

また楽曲のラストには重い打撃音のようなSEが現れます。

こうした演出・アレンジはすべて藤原基央の歌詞をもり立てるものです。

彼の自然哲学と人間哲学がすべて詰め込まれた歌詞になっています。

解釈はかなり難しいですので覚悟してください。

深い人間哲学に驚く

耳と目が記憶を 掴めなくなっても
生きるこの体が 教えてくれる
新しい傷跡に 手を当てるそのたびに
鮮やかに蘇る 懐かしい温もりを

出典: 月虹/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央

「月虹」は憂鬱な気分からの再生というものが物語の基軸に据えられています。

ここで語り手は記憶というものを喪失しても身体によって救われるということを訴えるのです。

傷の手当の際の手から発せられる熱を信じようという思いを語ります。

この精神でのケアよりも身体を信じ切るということを藤原基央は何よりも大事だと歌うのです。

再生というものは観念でするのではなく、実体として身体性の裏付けによって得られるものだということ。

そんな非常に大きく、さらに深い人間哲学が背景にあります。

この曲の歌詞の解釈については別の記事で一曲まるごと解説しました。

いずれにせよ手強い歌詞になっています。

3.「Aurora」

これぞ王道のポップソング

2019年3月15日発表、BUMP OF CHICKENの通算12作目の配信シングル「Aurora」です。

この曲が「aurora arc」の要になるのでしょう。

いかにもBUMP OF CHICKENらしいポップソングで穏やかな気分になれます。

シンセサイザーの音色でもこうした温かい音作りができるのは彼ららしいでしょう。

歌詞はかなり込み入っています。

また先ほどの「月虹」にしてもそうなのですが、自分を探すことの根源的な必要や意味を問うのです。

実際の歌詞を見ていただきましょう。

答えは確かだから

溜め息にもなれなかった 名前さえ持たない思いが
心の一番奥の方 爪を立てて 堪えていたんだ
触れて確かめられたら 形と音が分かるよ
伝えたい言葉はいつだって そうやって見つけてきた

出典: Aurora/作詞:藤原基央 作曲:藤原基央

一番胸に沁みるような中盤の歌詞から抜粋しました。

あなたは何かしらの心の不調や痛みに悩まされています。

それでもこうした現状に甘んじることなく答えを求めてゆこうとするのです。

先ほどの「月虹」では身体にその理由を求めてゆきます。

ところが藤原基央は「Aurora」においては心というものの一番深いところに答えを求めるのです。

ふたつの歌詞の間に方向性の違いがあるのは確かでしょう。

しかしどちらも正答といって問題ないです。

大事なことはその答えというものが確かなものなのかにかかっています。

見つける場所、探し出すべきところは多彩であってもいいのです。

「Aurora」における自分というものはとても奥深いものとして描かれているのが勇気になります。