動き始めた
汽車の窓に 顔をつけて
君は何か 言おうとしている
君の口びるが
「さようなら」と動くことが
こわくて 下を向いてた
時が行けば 幼い君も
大人になると 気づかないまま
今 春が来て 君はきれいになった
去年よりずっと きれいになった
出典: なごり雪/作詞:伊勢正三 作曲:伊勢正三
故郷へ続く汽車の窓越しで、向かい合うふたり。
「さようなら」という言葉に、「行かないで」と言うことは簡単だと思いますよね。
しかし、ここで引き留めることは「君」の両親からすると、娘と結婚するということに近いのではないでしょうか。
当人同士というより、両親や親戚の意見、家と家との繋がりが最も重要視されていた当時は、今よりももっと結婚に対するハードルが高かったように思います。
そこまでの仲ではなかったのか、「君」の両親を納得させられるような「ぼく」ではなかったのか。
子供っぽい恋愛ばかりを繰り返す日々を過ごしているうちに、「君」も自分自身の道を進む日が来てしまった。
もしかしたら、ふたりが将来のことをもっと真剣に考えていれば違った結末になったかもしれません。
また、真剣に考えていたとしても、歌詞と同じような別れを迎える運命だったのかもしれません。
いずれにせよ、こういう別れになることは、お互いが一番よくわかっていたのだと思います。
何も言えないぼくは、いくら引き留めたくとも、別れから目を逸らして下を向いているしかなかったのでしょう。
思い出の日々を惜しむように降る雪
君が去った ホームに残り
落ちてはとける 雪を見ていた
今 春が来て 君はきれいになった
去年よりずっと きれいになった
出典: なごり雪/作詞:伊勢正三 作曲:伊勢正三
君が行ってしまったホームで、雪を見ているぼく。
降っている間は雪ですが、地面に落ちるととけて、雪ではなくなってしまいます。
もしかしたら、落ちてはとける雪に、君との思い出と別れを重ねているのかもしれません。
この曲には「今 春が来て 君はきれいになった」「去年よりずっと きれいになった」というフレーズが繰り返されていますよね。
これは、君の年齢的な成長、外見的な綺麗さもちろんあると思います。
それに加えて、自立して自らの道を歩き始めた、大人の女性になった強さや美しさも同時に描いたフレーズだと思います。
ぼくは、別れがきてしまった時、その美しさに気づかされてしまった。
そして、余計に名残惜しい気持ちが、雪のように降っては消えていったのではないでしょうか。
「なごり雪」とは?
タイトルにもなっている「なごり雪」。
辞書などには「名残の雪」で載っていて、春が来ても消え残っている雪、春が来てから降る雪、という意味で春の季語でもあります。
この曲が発売された頃は、勝手に日本語を作るな、「なごり雪」ではなく「なごりの雪」にしろ、と言われたこともあったそうです。
しかし、今ではすっかり定着し、2013年に日本気象協会が選んだ「季節のことば36選」にも「なごり雪」として選ばれています。
また、「名残」は元々”余波”と書いて”なごり”と読む言葉で、波が打ち寄せ、後に残った海水や海藻などを意味していました。
そこから転じて何かの後に残る余韻や影響を表し、平安時代ごろにはすでに人との別れを惜しむ意味でも使われています。
この曲のタイトルとしては、卒業=春が来て降る雪、そして人との別れを惜しむように降る雪、という感じでしょうか。
なごり雪ではない”雪”が降っていた冬は、ふたりはまだ学生。
ほんの少し前の学生時代を思い出しているような、余韻も感じる言葉選びですよね!
まとめ
数多くのアーティストがカバーをする「なごり雪」の重要な歌詞についてまとめていきましょう。
まずは、この楽曲の背景から振り返ります。
舞台は東京、時期は春、登場する人物は「僕と君」の2人だけです。
「なごり雪」は、別れる男女の物語を歌ったもの。
別れるといっても、恋人関係を解消するという意味のものではありません。
遠くへ離れてしまうというような物理的な意味です。
そしてその男女は恋人同士ではなく、別れるときには「ただの友達」という関係だったのかもしれません。
しかしお互いにそう思っているとは限らないのです。
客観的に読んでも、僕が「ただの友達」だと思っていないということがわかるでしょう。
では、君の気持ちはどうなのでしょうか。
ここからは、重要な歌詞をピックアップしながら君の気持ちにもフォーカスしていきたいと思います。
お互いに惹かれ合っている?
さみしそうに君がつぶやく
出典: なごり雪/作詞:伊勢正三 作曲:伊勢正三
この歌詞からわかることは、寂しいと感じているのは僕だけではないということです。
離れていくという事態に、僕に関しては曲が始まってから終わるまでずっと悲しみを隠せていない様子が感じられます。
しかし、これは僕だけの感情ではないようです。
君自身が直接そう言ったわけではありませんが、僕が感じ取れるくらい溢れ出る声のトーンだったのでしょう。
その様子がこの部分の歌詞から感じられます。
「雪」が降っているという寒さを感じる状況で、君の気持ちを察してしまうと、より心が寂しいと感じてしまうような場面です。
僕はそんな彼女の様子を身近で感じてしまったが故にどんどん気持ちが沈んでいくのでしょう。
「もう2度と会えない」というわけでもないのでしょうが、彼らは現実を受け止めきれないのだと読み取ることができます。
君の存在の大きさに気がつく場面
今春が来て君はきれいになった
去年よりずっときれいになった
出典: なごり雪/作詞:伊勢正三 作曲:伊勢正三
この楽曲のサビの部分であるこの歌詞は、誰もが聴いたことあるくらい有名なフレーズです。
「なごり雪」といえばこの部分の歌詞!と言っても過言ではない重要な場面。
僕と君は、付き合っていたわけではないのでしょう。
恋人ではない2人ですが、一緒にいることに居心地のよさを感じていたのです。
しかし、君が遠くへ行ってしまうという衝撃的で信じられない事態に。
その事態がわかった途端に僕の気持ちが色付いていきます。
いつも近くにいるような存在で、気が付かなかった気持ちに気付いてしまうのです。
もしかすると気がつかない方が僕にとってはよかったのかもしれません。
しかし恋心なんてものは、気が付いたときには芽生えているようなもの。
僕の意思で止められるようなものではなかったのでしょう。
そして、その気が付いた時期が今年の春、君がいなくなる直前だった。
昨年には芽生えていなかった感情。
君が離れていくことを知ったあの日から、僕の心は君でいっぱいになってしまうのです。
しかし、時すでに遅し。
「もっと早く気が付いていれば…」というような気持ちを読み取ることができる歌詞部分だと感じます。