原詩の「FYI」はこの曲のサブタイトルにもなっています。

For Your Information」の略で和訳すると「ご参考までに」となるのです。

「分かっているわよね、今夜、私はあなたのものになることを

ふたりは色々とするのよ

参考までに 一晩中、私たちは起き続けるの

またね

電話をしてね

あなたは私の番号を知っているでしょ」

「FYI」は会話ではなくビジネス文書などで多用される言葉です。

ここから分かる通り歌詞は歌い出しのように文書でのやり取りを模したものになっています。

描かれているのは大人の恋愛模様です。

青春の淡い恋などとはまるで違います。

もっと夜を徹しての肉感的なやり取りで交わされる本当の愛の姿を描いているのです。

チベット仏教の高僧などはこうした愛には囚われません。

先ほどのマントラは宇多田ヒカルの解釈による慈愛のための呪文になります。

フリー・チベットを謳うからといって、そのものがチベット仏教に傾倒する必要はありません。

信条は違っていてもチベットでの人権侵害の事例を粛々と指弾すればいいのです。

宇多田ヒカル世俗的な愛こそ至上のものと考えています。

人間にできること。

その可能性は無限ですが、無理のない範囲で交わす愛の姿が一番に自分の背丈にあっているでしょう。

自然に交わせる愛こそが宇多田ヒカルにとって最高の価値あるものなのです。

どこまでも自由人

愛に生きることに正直でいたい

Utada【Merry Christmas Mr. Lawrence】歌詞和訳解説!風刺的な歌詞?の画像

Like Captain Picard
I'm chillin' and flossin'
It's seven o'clock
I issue a warning
That's right, we're stealing this show
Damn right, letting em know
We're sipping Chardonnay
From 2pm on a working day

出典: Merry Christmas Mr. Lawrence/作詞:Utada 作曲:Ryuichi Sakamoto

あまり馴染みのない人物名に驚くかもしれません。

「キャプテン・ピカードのように

私は落ち着いているし、余裕だわ

今は午後7時

私はあなたに警告を発するわ

正解よ、私たちはこのショーを気付かれずにこっそりやっているわ

大正解よ、皆に知らせましょう

私たちは平日の午後2時からシャルドネを少しずつ飲んでいるのよ」

キャプテン・ピカードとはSF映画ドラマ「スター・トレック」のピカード船長のこと。

彼のように何事にも動じずにいるということを歌っています。

日本語の歌詞ですとこうした粋な表現はできないでしょう。

夜はまだまだこれからです。

とはいえ、このふたりは午後2時からシャルドネをちびちび飲んでいるよう。

まるで本当に酩酊しているかのように分かりにくい状況説明が続きます。

実際に「Merry Christmas Mr. Lawrence」は非常に難解な歌詞です。

しかしここで歌われるメッセージは明確でしょう。

私は自分の愛に素直に生きたいのだという想い。

そこにチベットの弾圧された人々の境遇を重ねます。

弾圧された境遇でもマントラを唱えて慈悲を願う人々と、愛にも欲望にも自由に生きる私とあなた。

両者のコントラストを鮮明にさせます。

風刺とはいっても声高にフリー・チベットの主張を無骨にする曲ではないです。

あくまでも愛のドラマに昇華して歌い上げました。

平日の午後からシャルドネを傾けるこのふたりはどこまでも自由人です。

平日に仕事を持っている大半の人は眉をひそめるかもしれません。

しかし私もあなたもそのことを一切気に留める様子はないのです。

日常の中のマントラ

キリスト教とチベット仏教の交錯

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Ching-a-ling ching-a-ling what what
Ching-a-ling ching-a-ling what what
Take me down to the fields where the grass is
Where the grass is lime
Mp3 mp3 players
Work it out, work it out hustlers
Om mani padme Hum

出典: Merry Christmas Mr. Lawrence/作詞:Utada 作曲:Ryuichi Sakamoto

チベットの高原へ思いを馳せます。

「Ching a ling,Ching a ling(何よ、何よ?)

Ching a ling,Ching a ling(何よ、何よ?)

芝生が生えている野原まで私を連れて行って、芝生がライム色のところへ

MP3、MP3プレイヤー

上手くやって 上手くやって ボッタクリ屋たちよ

『オム・マニ・ペメ・フム』」

宇多田ヒカルはこの歌詞で自分の思いの丈をきちんと表現できたといいます。

Ching a lingは鈴の音の英語表現ですので「チリーン」と訳してもよかったです。

ただ、映画「戦場のメリークリスマス」に出演したデビッド・ボウイの楽曲のタイトルでもあります。

そのため英語表記のまま残しました。

都会の喧騒の中に身を埋めていた私はチベットの豊かな自然を想います。

宇多田ヒカルは根っからの都会人ですが自然豊かな土地への憧れも抱いているようです。

ただし、チベットは気軽に行ける場所ではありません。

MP3プレイヤーの音源の中で旅することにしたのでしょう。

この曲での「hustlers」の訳出は最後まで悩み尽くしました。

フリー・チベットの運動を考えると「活動家」という意味も考えられるのです。

しかし「hustlers」には様々な意味があります。

「詐欺師たち」という意味にまで変わる可能性がある。

アメリカ合衆国では「ボッタクリ屋」という意味が広く流通しているので採用しました。

また最後にマントラが現れます。

上述したとおりにこのマントラの意味を解読しようとするとそれだけで一冊の本ができそうです。

仏教的な慈愛の観念があふれた言葉でチベットでは日常生活で唱えられます。

すべての意味について考えなくても口にするだけで救われた気分になるのがマントラの秘密です。

チベットの人民のように一日の中で常に口にすること。

仏教的な真実への到達は長く時間がかかるものですが、マントラを唱えるのは一瞬のことです。

チベットの高僧だけが唱えているマントラではありません。

生活の中で密接したマントラなのです。

人生の端々でこのマントラを唱えてみたくなる。

宇多田ヒカルにとってのチベット仏教への理解はおそらく浅いもののはずです。

そもそもキリストの生誕祭への祝福の言葉をタイトルに据えた楽曲

ですからマントラの登場の意図は軽いものと推察されます。

それでも慈悲にあやかりたいと願っているのでしょう。

私と向き合って

人と人との折り合いについて

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See I don't need a free loader
No, I don't want a free loader
If you want a piece of this stuff
Got to give, got to give something

出典: Merry Christmas Mr. Lawrence/作詞:Utada 作曲:Ryuichi Sakamoto

この間にリフレインが含まれます。

繰り返しになりますので訳出は割愛いたしました。

「私はたかり屋なんかに用はないの

本当にたかり屋なんて欲してないから

あなたがこのものたちの一欠片でも欲しいのならば

妥協しなくちゃ、何かで妥協しなくちゃいけないわ」

何でも無償で手にする者への批判が描かれます。

あなたにはそんな人間であって欲しくないという気持ちが歌われるのです。

このたかり屋に関しても様々な推測がなされています。

正規の料金を支払わないで音源を手に入れる人たちへの批判や風刺とも捉えられました。

この説に従うと私とあなたの関係はアーティストとリスナーのものに変わります。

宇多田ヒカルはリスナーであるあなたを寝かさずに楽しみたいと願っている。

だから正規の手段で音源を楽しんでという解釈もできるのです。

たかり屋についてはもっと様々な隠喩が考えられるでしょう。

実際に宇多田ヒカルの周囲に寄ってくる怪しい人々のことを指すのかもしれません。

いずれにせよ宇多田ヒカルは私と向き合うならばきちんと手はずを整えて欲しい。

それくらいに私の方は真剣なのだからと歌っているようです。

妥協というものには負のイメージもあります。

しかし人と人が向き合うならばどこかで折り合いをつけるのが筋です。

あなたの方の用意はできているのという問いかけを含みたかったのでしょう。

「Merry Christmas Mr. Lawrence」の超越

西洋でも東洋でもない場所に向けて

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You know I, I'm gonna be yours tonight
We're gonna... Ooh aah
FYI We're gonna be up all night

出典: Merry Christmas Mr. Lawrence/作詞:Utada 作曲:Ryuichi Sakamoto