「ピエロ」
B'zはシングル曲の2nd Beatに秀逸なものが多いことでもよく知られています。
今回ご紹介する「ピエロ」もそんな2nd Beatの名曲の内の一つ。
この曲は、2006年の41thシングル「ゆるぎないものひとつ」に収録されています。表題曲は、B'zではおなじみ、名探偵コナンシリーズの劇場版『名探偵コナン 探偵たちの鎮魂歌』の主題歌となっています。
アルバム曲や2nd Beatも秀逸なB'z
不思議なことに、シングルって一般的に表題曲に注目が集まり、人気が出ることが多いですよね。
でもB'zに限っては、2nd Beatが人気を博すことがとても多いのです。
デビュー20周年を記念して企画されたファン投票で収録曲を決めたベストアルバム『B'z The Best "ULTRA Treasure"』は、30曲中シングル表題曲はたった5曲。
25thシングル「Home」の英語バージョンも収録されていますが、これを合わせても6曲しかありません。
後は、アルバム曲が17曲、シングルの2nd Beat、もしくは3rd Beatが7曲という結果に。
もちろん、この時は約3か月前にシングル曲を中心に集めた『B'z The Best "ULTRA Pleasure"』がリリースされたということもあるでしょう。
しかし、この『B'z The Best "ULTRA Pleasure"』に収録されたシングル表題曲は27曲。
この当時のB'zは45thシングルまでリリースしていましたから、両方のベストアルバムのシングル表題曲を合わせても32曲です。
13曲、両A面シングルの「ミエナイチカラ 〜INVISIBLE ONE〜/MOVE」の内の「MOVE」も合わせれば14曲ものシングル表題曲がこの2枚のベストアルバムに収録されていないことになります。
しかもB'zは、ご存じの方も多いかと思いますが、現在も更新中の驚くべき記録を持っていることを思い出してみてください。
デビューから2年後の1990年にリリースした5thシングル「太陽のkomachi Angel」の後に出したシングルは全てオリコン週間シングルチャート1位を獲得、という記録です。
2つのベルトアルバムから漏れたシングル曲も全て、チャート1位を記録した曲ということです。
そんな曲を押しのけてアルバム曲や2nd Beatが多数選ばれるということは、どの曲もそれだけクオリティが高いということの表れなのではないでしょうか。
15thアルバム『MONSTER』にも収録
この「ピエロ」は、2006年リリースの15thアルバム『MONSTER 』にも収録されています。
あまりコンセプトを決めてからアルバム制作に取り掛かることはないB'zですが、この時はアルバムタイトルとなった”MONSTER”という言葉が最初に松本孝弘にあったということ。
収録曲は以下の14曲。
1.ALL-OUT ATTACK
2.SPLASH!
3.ゆるぎないものひとつ
4.恋のサマーセッション
5.ケムリの世界
6.衝動 〜MONSTER MiX〜
7.無言のPromise
8.MONSTER
9.ネテモサメテモ
10.Happy Birthday
11.ピエロ
12.雨だれぶるーず
13.明日また陽が昇るなら
14.OCEAN 〜2006 MiX〜
出典: MONSTER/B'z
上木彩矢がカバー
ちなみにこの「ピエロ」は、上木彩矢がカバーしています。
彼女の為に稲葉浩志は歌詞を書き換えたものを提供したようです。
映画『真救世主伝説 北斗の拳 ラオウ伝 殉愛の章』の主題歌に使用されました。この映画では、新たに登場したラオウを愛する女性のレイナの声を柴咲コウが担当したことでも話題になりました。
「ピエロ」の歌詞を考える
では、ここからは歌詞を見ていきましょう。
東雲を追って……
桃色に 染まりゆく 東雲を追いかけて
疾走するポンコツカー あなたを乗せて
風に舞い かおる髪 もうちょい体よせ合いたい
あいつは血まなこ 憎しみ燃やす
Getaway, getaway 地の果てまで
こわいもの全部 ふきとばせ
何もかも 新しい瞬間
後ろはふりかえらないで
出典: ピエロ/作詞:稲葉浩志 作曲:松本孝弘
東雲とは、夜明け直前のわずかな光が雲を茜色に染めている様子を表す言葉です。
和歌などでは、愛する人の別れを指す言葉でもあるようです。
確かに、源氏物語などに描かれてる世界を見ると、女性のもとに男性が夜分に通い、明け方に女性の家を後にする、という習慣だったようなので、夜明け=別れることを指すようになったのでしょう。
でもここでは、昔の若のように別れの意味は感じさせません。
純粋に、夜が明ける前に愛する人を連れての逃避行の始まりのようです。
でももしかしたら、愛する人との別れではなくこれまで過ごした日常との別れとの意味を含ませているのかもしれませんね。
いずれにしても、風景が目に浮かぶような詩的な表現になっています。
怪物に心を バリバリ食いちらかされて
思わずあなたを 奪っちまったんだよ
この広い世界の中 2人しかいないような
寂しさかみしめ 胸かきむしる
Getaway, getaway 地の果てまで
あのカーブ越えりゃ 青い空
強烈な生と死の匂い
浮かれたようにハンドルを切る
出典: ピエロ/作詞:稲葉浩志 作曲:松本孝弘
いわゆる”病んだ状態”に陥ってしまったのでしょうか。
社会生活を送っていれば、無神経に傷つけられたり神経を逆なでされたり、理不尽なことを強いられることもよくあります。
誰もがそうなんだからと我慢に我慢を重ねても、無理なこともあります。
手に負えない怪物のように、心にそれらが大きくのしかかって来たとしたら。
困難に立ち向かうことも大切ですが、時には逃げることも必要です。
というよりも、限界が近付いたら自分を守る為に本能で逃げる道を選ぶのかもしれません。