描かれているのは大人になった主人公の少年時代
子どものころ、早く大人になりたいと思った経験はありませんか?
しかしいざ大人になれば、子どものころはよかったなと思うときもあるでしょう。
大人になり社会人として働き出すと、毎日が忙しい日々となります。
仕事に追われ、ときには周りから理不尽な扱いを受けてしまうこともあるかもしれません。
不条理で不道理的。
しかしそれが当たり前として、うまく世の中を渡っていくことが必要となることもあります。
そのように毎日を忙しく過ごしていると、ふとしたときに思い出す幼きころの記憶。
あぁ、子どものころはよかったなぁ。
あのころの自分にまた戻りたい…。
と、故郷の自然を思い出し、今いる大都会の中にその片鱗を探して懐かしむ。
そんな切なくも優しい、情緒あふれる歌が今回ご紹介する「夏模様」です。
都会で見る夕陽
夕陽が 窓の向こうで
音も立てず ゆっくり
沈んでゆく景色に 胸が
鷲掴みに ギュッてされた
出典: 夏模様/作詞:Satomi 作曲:林田健司
ここは、主人公が大人になり今見ている景色です。
直接ではなく建物の中から外を見ているので音は聞こえません。
窓の向こうでは、夕陽がゆっくりと沈んでいく様子が描かれています。
幼少期に見る夕陽は、当たり前のように外で見ていたのでしょう。
木々が風に吹かれて揺れる音や、虫の音なども一緒に聞こえていたかもしれません。
しかし大人になって見る夕陽は無音。
この時間帯に自由に外へ出られるような環境でないことを伝えたいようです。
昔は当然のように、いろいろな音と共に見ていたはずの夕陽。
それがいつの間にか、窓越しでしか見られなくなってしまった。
これが大人になることなのかな、と思うといたたまれない気持ちになったのでしょう。
胸がギュッと苦しく切ない心情が伝わってきます。
懐かしい幼少期を思い出す
幼少期の思い出
小さな夢 抱えながら
躓き転んで
膝を擦りむいた 蒼い夏の日
出典: 夏模様/作詞:Satomi 作曲:林田健司
ここでは主人公の幼少期の記憶が描かれています。
主人公は幼少期のころ、よく外で遊んでいたのでしょう。
この曲の曲調が沖縄民謡のようなので、出身は沖縄なのでしょうか。
幼少期の自分は、きっと何でもなれると思っていたのでしょう。
いつだって自分は特別で、何でもできる。
漠然とそう思いながら自由に過ごしていたのでしょう。
大人になってもこの自由は変わらずに続くことに、何も疑問を抱いていなかったようです。
蒼はグリーンに近い色
「蒼」は「あお」と読みます。
そのためブルーをイメージする方が多いかもしれません。
けれどじつは、「蒼」は草のあおい色を意味しており、グリーンに近い色です。
「蒼い夏の日」とは、草や木々が生い茂った夏のとある日のことを表現しているでしょう。
主人公が幼少期のころ、夏の時期は毎日のように森の中や草の中を走り回っていたようです。
転んでひざなどを擦りむいても気にせず、遊びに夢中になる日々。
とても自由で楽しい日々だった様子が伝わってきます。
アザミや夕陽も加わり、色鮮やかな情景が甦る
アザミの咲く小路(こみち)を抜けて
蝉時雨(せみしぐれ)の波 追いかけてた
やけに夕陽が滲んでいたのは
いつかの夏模様
静かに甦る この胸に。
出典: 夏模様/作詞:Satomi 作曲:林田健司
アザミはキク科の植物です。
4月から7月の時期に咲き、花の色は紫やピンク、白が主でしょう。
とても小さな菊のようで、刺々しい花を咲かせます。
葉や茎の部分には刺があり触ると痛く感じる場合が多いでしょう。
草原や海岸沿いに咲いていることが多いです。
主人公がよく遊んでいた場所は海沿いで、草や木々が生い茂る場所だったのでしょう。
「蒼く」生い茂る緑の中で、アザミの紫やピンクがある様子はとても色鮮やかな印象を受けます。
蝉時雨(せみしぐれ)とは、夏の季語でもあり夏の訪れを感じさせる言葉。
多くの蝉が一斉に鳴き始め、とてもうるさいと感じた経験はありませんか?
そして一斉に鳴いたかと思えば鳴き止み、しばらくの静寂が訪れる。
そしてまた蝉は、一斉に鳴き出す…。
唐突に鳴き、そして鳴き止む蝉の様子を表現したのが「蝉時雨」です。
主人公は、蝉が鳴く喧騒の中、アザミが咲き誇る細い道を駆け抜けていたのでしょう。
そして駆け抜けた先にあるのは、海に浮かぶ夕陽。
夕陽の赤い色は、雲にかかって滲んだように横に広がっていたのでしょう。
自然が生み出した色鮮やかな情景は、幼少期の主人公の胸に強い記憶として残っていたのです。
今は、社会人となり都会のビルの中で過ごすようになった主人公。
窓越しに浮かぶ夕陽を見て、幼少期に見た景色を思い出しているのです。
思い起こされるのは景色だけでなく、そのとき感じていた音やにおい。
それらすべてを思い出し、主人公はとても懐かしくも切ない気持ちになっているでしょう。