メジャーデビュー・ミニアルバムのリード曲
チャットモンチーのメジャーデビュー作は2005年11月に発売されたミニアルバム「chatmonchy has come」。
このアルバムのリード曲(代表曲)になったのが、今回取り上げる「ハナノユメ」です。
この曲は、全国のAM局やFM局のパワープレイ(ヘヴィ・ローテーション)に選ばれました。
これでチャットモンチーは一気に全国区のアーティストへと駆け上がったのです。
いきなり飛び込んでくる鮮烈な映像!

薄い紙で指を切って
赤い赤い血が滲む
これっぽっちの刃で痛い痛い指の先
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
イントロもなく、頭サビでガツンと入ってくる「ハナノユメ」の冒頭部分。
リスナーの頭の中には、血のにじんだ指先のアップの映像が鮮明に写し出されます。
紙で指を切る、そんな日常の光景が在り在りと浮かび、その痛みを思い出す人も多いのではないでしょうか。
その指は、自分の指なのか、曲に出てくる主人公の指なのか、それとももっと違う人の指なのか。
ここで間奏が入るため、冒頭を聞いただけではこれ以上想像することはできません。
しかし、曲が進んでいくと、同じ歌詞を聞きながら違う映像を思い浮かべることができるようになります。
そんなところも、この曲の深みです。
静止画のようなAメロ、心の宇宙をさまようBメロ
ハイトーンでガツンと始まった冒頭から一転、間奏あけに入るのはメロウな曲調のAメロ。
歌詞に出てくるのは静止画のような光景です。
そしてBメロでは軽快なリズムとは反比例するかのように、心の内部へと歌詞の世界が移り行きます。
ピンク色のバラに投影するものとは?
枯れてしまったピンク色のバラ
明日はちゃんと水を吸って
元気になりますように どうかどうか
幸せをあげるから
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
Aメロを聞いて映像として浮かぶのは、しおれかかったピンクのバラです。
それはほぼ静止画のような状態。
バラがズームアウトされ、花瓶の水を換えながらバラに祈りを込める人物へと想像を広げることもできます。
花が枯れたら捨てておしまい、ではなく、なんとか元気を取り戻して欲しいと願っている曲の主人公。
そんなところから、主人公は多分女性で、このバラは何か特別なものなのだとリスナーに伝わってきます。
大切な人からもらった花なのか?それとも自分の化身なのか?
たとえば、大切な人からもらったバラだと仮定してみましょう。
主人公がバラの花束を見ながら、それをもらった時の状況や喜びを追体験する姿が浮かびます。
では、自分の化身としてバラが表現されているとしましょう。
何か落ち込むことがあったけれど、何とかそこから這い上がりたい、そんな気持ちを想像することができます。
ピンク色のバラの意味とは?
そんなことを考えていると、Bメロでは物語が心の中へと入って行きます。
軽い言葉で重いテーマに触れる
二本足で立つ地球のすみっこ
ふらつく体 バランスとれてるかしら
トランス状態抜け出せなくて
グルグルまわる 明日はどこ
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
自分を突如、俯瞰(ふかん)で見始めるBメロの歌詞。
「二本足」という表現から、主人公が必死に踏ん張って立っている様子が想像できます。
それでも体がふらついているような感覚に襲われる主人公。
彼女は自分がきちんと立っているかどうかさえ、わからなくなってしまいます。
歌詞に出てくる「トランス状態」とは、一般的にスピリチュアルな意味で使われることが多いようです。
一方で、魂が抜けてしまったような状態(脱魂状態)や酩酊状態などのことも意味します。
自分が自分じゃないような感覚にもがく彼女。
自分の心の宇宙をグルグルと思考がまわり、明日を見失いそうになってしまいます。
この部分は言葉選びを間違うと、とても重くなりがちなテーマです。
でも、あえてリズミカルなテンポにすることで、軽やかにリスナーへ伝えています。