サビから始まり、Aメロ、Bメロと進んでも体の一部分や抽象的な心の動きしか出て来ない「ハナノユメ」。
ところが、1番のサビで新たな展開を迎えます。
薄い紙で指を切って
赤い赤い血が滲む
これっぽっちの刃で痛い痛い指の先
バラのトゲを見ていたら
あなたの心の寂しさが
痛い痛い とがった心臓
ドクンドクン 血がめぐる
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
1番のサビで冒頭と同じ歌詞と旋律を繰り返し、同じ旋律にのせて突如現れる「あなた」という人物。
4行目にあるように、思い出された「あなた」は、バラをくれた人なのかもしれません。
男性なのか、女性なのか。
どちらとも受け取れます。
でも、そんな「あなた」も痛いほどの寂しさを抱えているのです。
血が滲んで痛い指と、「あなた」の寂しさに痛む心。
ここで体の痛みと心の痛みが重なります。
そして、リスナーの頭の中に浮かぶのは、トゲのようにとがった心臓へ真っ赤な血液が次々に運び込まれる映像。
とがった心臓とは、深く傷ついてしまった心のことなのかもしれません。
体をめぐる血、グルグル回る思考。
主人公も、そしてリスナーも深い迷路へと迷い込んで行きます。
曲の終盤で深読みが加速していく!
「あなた」について想像する2度目のBメロ
二本足で立つ(二本足で立つ)
地球の隅っこ(地球の隅っこ)
ふらつく体(ふらつく体)
トランス状態(トランス状態)
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
曲はここでBメロの一部を繰り返します。
この不安定な部分を繰り返すことで、主人公の苦悩がじわじわとリスナーの心へと染みてくるのです。
二本足で立つ地球のすみっこ
ふらつく体 バランスとれてるかしら
トランス状態抜け出せなくて
グルグルまわる あなたの声
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
そして、今度は「あなたの声」がグルグルとまわるのです。
ここまで聞くと、「あなた」はもしかしたら主人公の恋人なのではないか?という想像が浮かんできます。
そして、ピンクのバラは「あなた」の言葉で傷ついた主人公の心だと憶測することもできるのです。
どうしてバラに幸せを与えるのか?
薄い紙で指を切って
赤い赤い血が滲む
これっぽっちの刃で痛い痛い指の先
あなたのトゲが刺さったようで
これっぽっちの小さな傷が
痛い痛い まあるい心臓
ドクンドクン 血がめぐる
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
3度目のサビでは、主人公の体の痛みと心の痛みが交差します。
トゲのような痛みは指先なのか?それとも心なのか?
リスナーは、指先の小さな傷がとても痛いということに共感しながら、「あなた」のことを想像します。
そして、「あなた」が出て来たことで、曲の冒頭部分と同じ歌詞が違う意味に取れるようになるのです。
始めには単なる日常の一風景だった「紙で指~」という歌詞。
その裏側にある思いをリスナーは探ります。
「あなた」の何気ない言葉に「私」は傷ついているのよ、という思いがあるのではないかと思うのです。
枯れてしまったピンク色のバラ
幸せをあげるから
出典: ハナノユメ/作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子
曲の最後に再び出てくるピンクのバラ。
このバラも、主人公の恋心を投影しているかもしれないと思えてきます。
だからこそ、バラに与えるのは「幸せ」なのではないか?と、深読みすることができます。
作者はどういう思いだったのでしょうか?
「ハナノユメ」を作詞したのは、2011年に脱退したドラム担当の高橋久美子さんでした。
脱退後は作家・作詞家として活動するかたわら、ラジオのパーソナリティーとしても活躍しています。
2019年4月に始まった、NHKラジオ第1放送の「うたことば」にも出演。
MCを隔週で担当し、いろいろなアーティストの歌詞について語っています。
また、歌詞の中の言葉を作詞家としての目線で紹介する、「くみことば」というコーナーも担当。