「発熱」ってどんな楽曲?
今回ご紹介する「発熱」は、2016年に発売されたロックバンドtacicaの9thシングルです。
疾走感あふれるビートに心が掻き立てられる楽曲ですが、魅力はなんといっても歌詞でしょう。
ボーカルの猪狩翔一が一体どんな思いを込めて紡いだのか。
タイアップ作品とも絡めながらその意味を見ていこうと思います。
「ハイキュー!!セカンドシーズン」のEDテーマ曲
「ハイキュー!!」2度目のタイアップ
「発熱」は2015年から放送されたアニメ「ハイキュー!!セカンドシーズン」の後期EDテーマ曲です。
tacicaと同作のタッグはこれが2度目。
1度目は同作の第1期で、後期EDテーマ曲を担当しました。そのときの楽曲は「LEO」。
「LEO」は、1人のキャラクターにフィーチャーしたED映像が話題になりました。
この「LEO」が見事に作品にマッチしていたこともあり、2度目のタイアップも実現したのではないでしょうか。
では、なぜそんなにtacicaの世界観と「ハイキュー!!」は相性がいいのでしょうか。
「発熱」の歌詞を徹底解説!
"僕等"のなかに存在する絶望と未来
何者でもない者
眼を光らせた
只の独り善がりだって良いさ 夜の者
星一つない空でも手を差し出せよ
来るか来ないかは別の僕等の願い
出典: 発熱/作詞:猪狩翔一 作曲:猪狩翔一
真っ暗な世界のなかに、誰かが放り出された光景が想像できます。
その人物は、なにも為せなかったのでしょう。
でもまだ、完全に心が死んでしまったわけではないようです。
瞳の奥に、闘志や熱意といった熱いものが灯っていることが2行目からうかがえます。
その人物はなにもつかめなかった手を、暗闇に伸ばそうとしていますね。
真っ暗なので、その先になにがあるのか分かりません。
希望が待っているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
どうなるか分からないけど、今はとにかくこうするしかない。
そんなひりつくような必死な思いで手を伸ばしている様子が浮かびます。
最後の行に登場する"別の僕等"とは誰でしょうか?
筆者は、最初に登場する人物と同一人物だと思いました。
絶望の中で必死に手を伸ばす"僕等"も、その先で未来を選択する"僕等"も、全部同じ"僕等"。
つまり、絶望することがあったとしても、"僕"に再び希望を与えてくれるのも自分以外にはいない。
どうしたいかは自分次第。
そんなメッセージを筆者は受け取りました。
希望が生まれる場所はすぐ近くに
そうだ 呼吸も 鼓動も 二つとない世界での事
出典: 発熱/作詞:猪狩翔一 作曲:猪狩翔一
なにかうまくいかなかったり、ダメだなと落ち込むと、全部悲観してしまうことってあります。
でも「そんなことはない」とこの歌詞は語りかけているようです。
「明日を生きるための第1歩は、いつだって自分のなかから生まれてくるんだ」と。
印象的なのが、この部分のED映像です。
イントロから描かれるのは、インターハイ予選で主人公たちの学校・烏野が、青葉城西戦で敗北した様子。
主人公の2人がコートに崩れ落ち、彼らの前に立ちはだかったライバルの背中を呆然と見上げています。
しかし、このフレーズに合わせ2人は拳を握りしめゆっくりと立ち上がるのです。
そして、2人が果てない空を見上げている様子を背中越しに映し出します。
冒頭で暗闇に放り出された"僕等"が、ゆっくりとだけどたしかに立ち上がったのです。
もがきながら朝陽を目指す
いつも色のない舞台に立って
尚 その奥で誰も観た事のない朝陽を待ってる
途方に暮れて 掠れたまま
自分に触れる
出典: 発熱/作詞:猪狩翔一 作曲:猪狩翔一
自分の立っている場所にまだまだ満足していない。もっと高みを目指していきたい。
そう歌っています。
この部分だけだと、希望に溢れた応援歌にも聴こえますね。
でも、そこはtacicaです。
もっとリアリティのある綺麗事だけじゃ語れない言葉が続きます。
希望を夢見ているけど、まだどうしたらいいのかはっきりと分からない。
もどかしくて焦っているような気持ちなのかもしれません。
上を目指したいという熱がくすぶっていて、その熱を確かめているのでしょう。
希望は目に見えないもの。
だから、自分の手で自分のなかに燃える炎に触れてその熱さを確かめたくなるのです。