『分離派』とは?
完成したアルバムは「分離派の夏」と名付けられました。
小袋さんはクリムトを筆頭とするウィーン分離派の芸術家にシンパシーを抱いていたそうです。
分離派運動とは保守的な世界から飛び出した新しい芸術闘争のことです。
「ウィーン分離派運動とは別の定義」と小袋さんは関係性を否定します。
しかし彼の音楽にはそれらと通じる明らかな革新性を秘めています。
彼は現代の音楽シーンを100年前の分離派運動と重ね合わせたのではないでしょうか?
ケンドリック・ラマーがヒップホップに新しい風を運んでいること。
ロバート・グラスパーがジャズというジャンルを閉塞感から解放している状況。
日本では菊池成孔がジャズミュージシャンとしてラップの道を選ばざるえないこと。
そんな状況で自ら音楽を作らずにいられない衝動に歓喜したのではないでしょうか。
『喪の仕事』=過去を受け入れること
これは人生で最も衝撃的な体験であった。みずみずしい感情が、薄皮剥がれたこの身に閃光のように駆け巡った。自らの複雑な性格がゆえに自らを世界の「分離派」と認め、これまで内なる世界を広げようとしなかった悪習などなかったかのように、恍惚な夏の日々は私をも世界へ溶かしてしまった。
出典: http://obukuro.com/
宇多田ヒカルとの出会いで世界の見方が変わってしまった小袋成彬。
以前の自分を「分離派」と称します。
彼の作る曲は極めて内省的な感情を吐露する内容となりました。
精神医学的にいう「分離派」以前の自身を弔うための「喪の仕事」をしたのです。
偶然か必然か宇多田ヒカルの「Fantome」もまさに「喪の仕事」をテーマにしています。
図らずも共通のテーマを持って作品に向かい合っていた二人の出会いだったのです。
そこからアルバムタイトルは「分離派の夏」となるのは必然だったのでしょう。
彼の言う「分離派」についてはオフィシャルサイトにて自身の言葉で綴られています。
小袋成彬オフィシャルサイト「分離派」
アルバム『分離派の夏』に迫る
『分離派の夏』収録曲
収録曲
1.042616 @London
2.Game
3.E. Primaves
4.Daydreaming in Guam
5.Selfish
6.101117 @El Camino de Santiago
7.Summer Reminds Me
8.GOODBOY
9.Lonely One feat.宇多田ヒカル
10.再会
11.茗荷谷にて
12.夏の夢
13.門出
14.愛の漸進
出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/分離派の夏
「分離派の夏」を聴いた方はまずある2曲に耳を奪われます。
1曲目の「042616@London」と6曲目の「101117@El Camino de Santiago」です。
前者は友人が「喪の仕事」について様々な芸術家を引き合いに出しつつ説明するスキット。
後者は小説家を目指す別の友人が仕事を辞める時の気持ちを語るスキットです。
曲名は語りを録音した日付と場所をそのまま付けただけのシンプルなものです。
しかしこの2曲があって初めて「分離派の夏」は完成したと思わせる不思議なスキットなのです。
深い歌詞の世界
夏に燃えた君
なぜ親父の誕生日に
晴れやかな黒
賑やかな黒
浮かぶ
母の苦労よりも
グアムの水着の跡
だから僕は白昼夢の中に
意味なんて求めないからさ
また君に会えるまで
薪を焚べ続けなきゃ
出典: Daydreaming in Guam/作詞:Nariaki Obukuro 作曲:Nariaki Obukuro
小袋さんの歌詞でパッと思い浮かぶのが実は4曲目の「Daydreaming in Guam」です。
これも「喪の仕事」なのでしょう。
冒頭、身体の弱い二人で喘息を堪えながら朝まで語らった思い出を静かに語ります。
白い肌が二人の勲章なのはグアムで語り手が熱を出してしまったから。
その後隣町で暮らす「君」が倒れます。
「夏に燃えた君」とは「親父の誕生日」に失くした大切な人なのでしょう。
歌詞とシンクロするように小袋さんの歌声は少しずつ熱を帯びてゆきます。
短い歌詞の中で韻の捉え方とメロディが余りにも自然に融合しているのです。
実際に曲を通して聴くと押韻と歌声が相互関係で結ばれているのが良く分かります。
小袋さんにとっての作曲とは頭の片隅の情景を「知的な操作で実体化」することだと言います。
それが一番自然な形で表現できたのが「Daydreaming in Guam」です。