主人公の秋山さんは、自分自身が持つ音楽の才能を武器に生きていくことを決めました。
しかしそこは厳しい世界。多くのアーティストがデビューしては消え…を繰り返す場所です。
それは決して珍しいことではありませんし、ましてや消えてしまうことは恥ずべきことでもないでしょう。
しかし世間の人々の目は違っていました。
不安定な世界で音楽に没頭する人たちを嘲笑い、自分たちより劣っていると見下すのです。
秋山さんはそんな自分たちの状況を、動物園で檻に囲まれて暮らす生き物に例えました。
狭い空間に押し込められ、見世物にされているような感覚。
明確につづられてはいないものの、悔しさややるせなさがギュッと詰め込まれているように感じられます。
飛べなくたって
羽をもぎ取られた
育ちの声
偶然逃げるとこなんで
出典: 猿上がりシティーポップ/作詞:KIRO AKIYAMA 作曲:KIRO AKIYAMA
1行目の羽とは、自分がやりたいことに対して注ぐ情熱のようなものでしょう。
しかし先述した歌詞にあった通り、嘲笑され続けたことによってその熱意は削がれてしまった。
きっと飛べずに地を這う秋山さんを、人々はますます見下すのでしょう。
そんな人々に対し、負け惜しみのように吐いた3行目の言葉。
悔しさを滲ませているようなこの言葉からは、再起を図る強さも感じられます。
誰に向けた言葉?
「もう一度どこかで
会えたらいいな」って
何より愛したいんだ
居場所くらいは
居場所くらいは…
出典: 猿上がりシティーポップ/作詞:KIRO AKIYAMA 作曲:KIRO AKIYAMA
秋山さんにとって故郷は、居心地のいい場所ではなかったのでしょう。
これまで触れてきたとおり、就職もせず音楽に没頭する姿を周囲の人々は受け入れてくれませんでした。
背中を押されて地元を飛び出したわけでもなく、励まされたわけでもない。
そんな故郷や故郷の人々に対する思い入れは、きっとないに違いありません。
ですがアーティストの多くは自分が有名になると、故郷での凱旋ライブを行う。
そんな人たちを遠くから見つめる秋山さんは、自分にも愛すべき場所がほしいと本心を覗かせています。
つまり1-2行目のセリフは、秋山さんが故郷やそこにいる人々に向けて言いたい言葉でしょう。
本当の自分と偽りの自分
周囲に同調するしかなかった
何黙ってんの?ここで
何にもない町の底
きっと凛としなくちゃならないよ
嘘は得意な方かい?
出典: 猿上がりシティーポップ/作詞:KIRO AKIYAMA 作曲:KIRO AKIYAMA
秋山さんにとって故郷とは、とても生きにくい場所でした。
2行目では故郷のことを「何もない」場所だと吐き捨てています。
しかも自分自身はそんな空っぽの町の底辺にいるとまで思っているようですね。
周囲と同じような道を歩けない自分自身を蔑んでいるのでしょうか。
しかしその反面、3-4行目ではその底辺から抜け出そうとする様子を見せているのです。
この場所で生きている間だけはせめて、周りの人たちと同じように振る舞わなくてはいけない。
ピッと背筋を伸ばして生きていかなくてはいけない。そう思ったのかもしれません。
そうすべく、秋山さんは自分自身に問いかけます。
そうやって自分自身を偽ることはできるか?と…。
孤独を癒せるならせめて…
馬鹿みたい
馬鹿みたいって言って
笑ってよ 笑ってよ
まるでひとりぼっちみたいに
感じるよ 感じるよ…
出典: 猿上がりシティーポップ/作詞:KIRO AKIYAMA 作曲:KIRO AKIYAMA
ここからは秋山さんの切ない心情が感じられます。
学校を中退、就職もしなかった自分を見る周囲の目は想像以上に厳しいものでした。
しかしそんな場所で生きるしかなかったのでしょう。
反発心こそ持っていたものの、表面上は「周囲の人たちと同じだ」と偽るしかなかった。
しかしその嘘は、秋山さんをとても苦しめたのでしょう。
歌詞からは自分を偽るしかなかったことに対する虚しさ、行き場のない悲しさが滲み出ていますね。
孤独感を閉じ込めようと必死になっていたものの、それに押し負けてしまったのかもしれません。