理想的なカップルの身長差というのをご存知でしょうか。
一般的にはその差は「15cm」と言われています。
なんだかそれを想起させるような歌詞になっています。
実際、耳におでこがくっつくとなると15cmよりは身長差は少ないようにも感じますが、背伸びしてたら、、とか考えるとなんだか愛おしさや温かさが感じられます。
「甘い匂いに誘われたあたしはかぶとむし」とここで「かぶとむし」がついに出てきます。
「彼の匂いが好き」「恋人の匂いが落ち着く」という女性は多いそうです。
そんな彼に抱きつく彼女の姿を絶妙に「かぶとむし」という言葉で表現しています。
ここで渋いのは女性が「カブトムシ」であるのに対して男性は何か?を言及していないことです。
「甘い匂いに誘われたあたしはかぶとむし」という表現から、その対比となる男性は恐らく「樹木」なのではないでしょうか。
しかもカブトムシが寄りつく樹木ですから、森林や神社などにある立派な大樹である筈です。
しかし、それを「樹木」ではなく「甘い匂いに誘われた」で間接的に表現しているのが適切で渋く見えます。
それだけ女性にとって恋する男性が頼りがいあって強い人であることがこのフレーズに歌い込まれているのです。
愛しさと切なさ
瞬間の閃光
流れ星ながれる 苦しうれし胸の痛み
生涯忘れることはないでしょう
生涯忘れることはないでしょう
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko
流れ星は出現したかと思えばあっという間にハッと消えていきます。
苦しいことも嬉しいことも胸に刻まれていきますが、長い人生を見れば一瞬のことです。
そして、非常に印象的な歌詞である「生涯忘れることはないでしょう」という部分。
死や加齢も例に出しながらここに収束させてきます。
たとえ一瞬の出来事であろうとも胸に刻まれたあなたとの思い出はかけがえのないもので、ずっと大切なことであるというのをまっすぐな気持ちで表現しています。
立体感のある春夏秋冬
鼻先をくすぐる春 リンと立つのは空の青い夏
袖を風が過ぎるは秋中 そう 気が付けば真横を通る冬
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko
ここ!ここの歌詞!素敵過ぎませんか?!
「かぶとむし」という言葉以上に筆者はこの部分にグッときてしまいました。
四季が過ぎ去っていく様を流れるようにこんな素敵な古語のような表現で歌詞を書けるのはaiko以外に知りません。
ここで素晴らしいのは「鼻先をくすぐる」「空の青い」「袖を風が過ぎる」「真横を通る」という表現です。
春の淡い香りと夏の爽やかさ、そして秋の抒情に冬の切なさという四季折々のイメージを個々に表現しています。
これは正に季語を絶対条件とする俳句の美しき文学表現であり、個々に違うフレーズで厚みと立体感を与えました。
恋の感傷を四季に喩えて俯瞰することによって物語が女性個人から超越した視点に拡張されるのです。
とめどなく溢れる感情
強い悲しいこと全部 心に残ってしまうとしたら
それもあなたと過ごしたしるし そう 幸せに思えるだろう
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko
恋愛をするのは楽しいことばかりではないでしょう。
もちろん喧嘩だってするでしょう。悲しい思いもします。
それも「あなたと過ごしたしるし」なんて言えちゃうaikoはなんて健気なんでしょう。
共に過ごした思い出を全部幸せに思えるだなんて、、無理かもしれないけれど、その姿勢にキュンときてしまいます。
ここで初めて「悲しい」「幸せ」といった感情を直接的に表現する形容詞が出てくる仕組みになっています。
そう、恋愛は続くにしても終わるにしても、決して幸せだけではないことがここで歌い込まれているのです。
ここでの「幸せ」とは単純明快で前向きな幸福ではなく「悲しさ」といった負の側面も含まれます。
それら全てをもって「幸せ」という達観した境地で締めくくることによって、2人の恋が大人っぽくなるのです。
遠眼と近眼
直球と変化球
息を止めて見つめる先には長いまつげが揺れてる
出典: カブトムシ/作詞:aiko 作曲:aiko
息を止めて見つめるのはやはり「あたし」だと考えます。
長いまつげは彼。
長いまつげが揺れてるのが見えているということは目を見えいるんだと考えられます。
ということは、見つめ合ってハッと息を呑んでいるそんな場面が想像できます。
ここでまた女性の気持ちは遠眼から近眼へ戻り、お互いに至近距離で見つめ合うことで真っ直ぐ受け止めています。
とても面白いのは「直球」と「変化球」を使い分けている所でしょう。
最初はやや変化球のようなアプローチでありながら、勝負を仕掛ける段階に来たら一気に直球に変わります。