悲しそうな君を見ていて、ハッとした僕。
君を傷つけてきたのは僕自身だと気づいたのです。
僕はただの友だちでしかなく、君の隣に立つことはできません。
遠くから眺めるしかない僕が、君のためにできる唯一のことが「守ること」だと思っていました。
しかし僕が「悪」だと決めつけて撃ち落としたミサイルは、君にとって大切な存在だったのでしょう。
僕のせいで、君は大切な存在を失ってしまったのです。
水に沈んだポプラの樹が、水面の上に顔を出そうと必死に揺れています。
ポプラの葉のカサついた音と、君の悲しげな歌声が重なりました。
君のためにできることは「消えること」
君の幸せを願うなら、僕は何をするべきなのか。
守ることでは幸せにできないと知った僕は、とある答えに行き着きます。
毒にも薬にもなってしまった行動
日向に見るよ 青い経路
冷たい思い出に変わるまでに
あの疾んだ芥子みたいな毎日を
永劫君は知らずにいて欲しい
褪せた色に続いていけばいい
出典: トイパトリオット/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
暖色をイメージする日向に、寒色の青い路が見えています。
僕がしてきた間違いを青い路で冷やしてしまえば、暖かな場所にいる君には知られずに済むかもしれません。
間違いだらけの日々を「疾んだ芥子(やんだけし)」と表現しています。
「ケシ」はアヘンの原料ともなり、風味を楽しむ食材としても使われる植物です。
君にとっては毒であり、僕にとっては君をより幸せにするハーブのようなもの。
どちらの側面も抱えていた日々を「疾んだ芥子」と表現したのでしょう。
君を悲しませたのが僕だということを、知らないままでいて欲しいと願います。
誰のせいか分からないまま、色褪せていって欲しい。
少し身勝手にも感じますね。
知っているのさ いつか君が
僕のことを忘れることを
それでいいさ 僕は君を守るため
傷をつけるパトリオットさ
出典: トイパトリオット/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
ただの友だち。深い付き合いはないからそのうち疎遠になっていきます。
名前を聞いても思い出せないぐらいの存在になるかもしれません。
でも僕は、忘れられるべき存在です。なぜなら君を傷つけてきたのだから。
君を守ると息巻きながら、守ろうとする強さで君を傷つけていました。
僕がいない世界を想像する
恐ろしい夜も下らない朝も
すべて粉々に砕け散れば
あの羊水が涸れた砂漠の中
君はほら 誰かと歩いていく
鮮やかな色で満ち足りた道
出典: トイパトリオット/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
君を脅かす全てのものがパトリオットによって破壊されたらいい。
ここにはおそらく、僕自身も含まれているでしょう。
羊水は、胎児を守る大切な存在で、失われれば胎児は死んでしまいます。
しかし羊水が枯れても、君は誰かと歩いていくと歌います。羊水は「僕」のこと。
僕がいなくなっても、君は荒れ果てた砂漠を明るく染める誰かと共に歩んでいけるのです。
つまり「僕が存在しないほうが君にとっては幸せだろう」ということです。
ただ守りたかっただけだった
僕がいなくなるとき
君の心に傷がつくよう
そう願ってしまう脆弱を
ひとつだけ許して欲しい
出典: トイパトリオット/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師
もしも僕がいなくなったらどうなるか。どうなってほしいか。
守ってきた君に「傷」がつけばいいと願います。
守る人がいなくなり、君が誰かに傷つけられれば、僕が意味のある存在だったのだと証明できます。
更に深読みをしてみましょう。
僕は君を守る存在であり、君を傷つける存在でした。
「守る僕」がいなくなれば、「傷つける僕」を止めることができません。
「傷つける僕」の攻撃によって、君の心に僕という存在を刻みつけたい。
そんなふうに読み取ることもできます。
「僕は君を守りたかっただけなんだ」
パトリオットは空の上で敵ミサイルを迎撃します。自国に影響しないように海の上などを選びます。
そのため君を守るために飛んでいく僕や実際に迎撃している僕の姿を、君は見たことがないでしょう。
僕が空の上で何をしていたのか、何のために飛んでいったのか、君は知らないのです。
知ってもらうためには、僕が消えた世界を作らなければならない。
僕の想いを届けるには、君の前から消えるという選択肢が最良だと判断したのかもしれません。
「トイパトリオット」は身勝手で真っ直ぐに飛ぶ
曲調は明るいのに、歌詞を読み解くと苦しくてもどかしいのが「トイパトリオット」です。
守りたい一心で他者を排除するのは身勝手ですが、「守りたい」という気持ちはひたすらに真っ直ぐ。
自分が消えればそれでいい、という今までの自分を全否定するような結論に心が重たくなります。
この曲は、「パトリオット」という単語にある2つの意味を、非常に巧く用いているのが印象的でした。