忘れてく思い出は 計り知れない
愛してた想いは あなたよりも深い
出典: 夏服/作詞:AIKO 作曲:AIKO
そうして恋人と別れてしまった主人公。
共に過ごした思い出はあまりに多くかけがえのないものでした。
忘れてしまうことなど主人公には想像できません。
恋人が主人公を想ってくれた気持ち、それよりももっと大きな気持ちで主人公は恋人を愛していました。
嘘を付いてまで自分を気遣ってくれなくとも、別にあなたを嫌いになったりするはずなどないのに。
そんな思いが読みとれます。
同時に、この恋を先に吹っ切ってしまうであろう恋人に対して、私はそうではない。
私はあなたみたいに簡単にこの想いを忘れる事ができない。という悲痛な思いを訴えているようにもみえます。
遠ざかる背中
服を変えることの意味
お願い あたしより先にその夏服を着ないで
出典: 夏服/作詞:AIKO 作曲:AIKO
移り変わる季節に対して人間もまた装いを変えて順応しようとします。
それが衣替えです。冬の衣服から着替えて夏に向かって備える。
新たな季節へ進むために欠かせないものですね。
夏服に着替える恋人。
主人公と一緒にいた冬の記憶を脱ぎ捨てて、次の季節へ進んでいくことを意味しています。
主人公の悲しみ
冬の切なさ引きずったまま
あたしはそっちに行けない
あたしはここに立ったまま
出典: 夏服/作詞:AIKO 作曲:AIKO
対して、主人公は冬服を脱ぐことができません。
冬という季節は二人の関係が終わった季節です。
氷のように凍てついて、未だ溶けていない主人公の心の状態でもあります。
主人公は恋人と共にあった過去、冬の悲しい別れを吹っ切り、前に進むことができずにいるのです。
そんな必死の思いが、先に夏の装いにならないで。という言葉に現れています。
「私のことを過去にして先に行ってしまわないで。」と恋人を呼び止めようとしているのです。
新しい季節に進むことが、恋人の日々を過去にして前に進むことができない。
あなたを大好きなまま。思いを捨てられないまま、主人公は立ち止まることしかできずにいるのです。
心は変わらないのに季節は変わり、恋人だったあなたはどんどん先へ進んでいく。
主人公は取り残され、置いて行かれてしまいます。
それでもどうすることもできず、ただ立ち尽くしているのです。
動けない主人公
忘れてく思い出は 計り知れない
愛してた想いは あなたよりも深い
お願い あたしより先にその夏服を着ないで
冬の切なさ引きずったまま
あたしはそっちに行けない
あたしはここに立ったまま
出典: 夏服/作詞:AIKO 作曲:AIKO
曲のラストに向けて、先に出たフレーズを繰り返しています。
この繰り返しは、幾度となく同じことを考えてしまう。主人公の堂々巡りの思考を表しています。
別れた恋人の存在が大きすぎて、もう隣にいられない現実が受け入れられないまま。
恋を思い出にすることができず、主人公は一歩も動けずにいます。
JーPOPの曲構成では、ラストのサビで過去のサビのフレーズを繰り返すことはよくあります。
その場合、一番最後だけ表現を変えてこれまでと違ったニュアンスを持たせることが多いです。
ですが、「夏服」に関してはそうではありません。
同じ言葉、同じ感情を繰り返しています。
冬に取り残された主人公の心は凍てついたまま、恋人との別れを吹っ切ることができないのです。
少しずつ夏に近づいていく季節の境目で、置いていかないで。と恋人の背中を眺めて嘆いている。
そんな主人公の姿が、曲が終わってもずっと残っているのです。
初夏に抱く哀愁
夏服に着替えること
冬服から夏服へ、夏服から冬服へ。季節が変わる度、私たちは毎年必ず衣替えをします。
季節の変化を服装という形でもって改めて認識する。
それによって、季節が変わったことを自然のうちに意識し、受け入れる儀式のようなものでもありますね。
「夏服」ではその変化を恋愛の終わりに置き換えて歌っているのです。
夏服に着替えてしまえば、もうしばらくは冬の光景に心奪われることはありません。
雪景色を思い返すことはしても、吹く風の冷たさに触れることはできないのです。
過ぎゆく季節を後戻りすることはできません。
そう思うと、衣替えは季節を過去に置いてきてしまうような寂しさを覚えます。
昨日までは真っ黒な学ランを着ていたあの人が、次の日には真っ白なシャツを着て教室にやってくる。
真っ白な夏服はもう自分の知っているあの人とは別の人のようで、胸が切なくなります。
過ぎゆく季節の中に隠れている、ふとした瞬間の哀愁。
aikoがこの歌に込めたのはそんな思いなのではないでしょうか。