ガラス張りの建物に慌てて駆け込んだとき、そこにガラスがあることに気づかず衝突してしまう。

こんな話を聞いたことはありませんか?

最近は反射率を極限まで下げたガラスが登場し、ガラスの透明度を上げる技術も向上しました。

そんな技術革新ゆえの事故なのです。

反射率が低いガラスなのに、そこに自分の姿が映り込んでしまうのはなぜでしょうか。

例えば新しい技術を詰め込んだこのガラスが「新入社員」だと仮定しましょう。

フレッシュな後輩を目の前に心機一転、デキる先輩であろうと心に決めて接します。

まっさらな状態で入社した彼らは、教えたもの全てを吸収してくれるはずでした。

しかし先輩の考えや言動に疑問を抱き始め、それが態度に出てしまったのかもしれません。

後輩の態度を通して、自分の無能さや非常識さが鏡に映したかのようにはっきりと見えたのではないでしょうか。

意味もないくらい暗い部屋で腐敗・落胆
来年こそ再来年こそと眩しい朝日を思い浮かべます

出典: 奴隷の唄/作詞:小池貞利 作曲:小池貞利

これが初めてではないようですね!今までに何度も同じ経験をしてきました。

「新人教育は別の人に代わってもらうから」

そんな形で、頼れる先輩という立場から引きずり降ろされたのではないでしょうか。

1度ならず2度、3度同じことを繰り返せば、自分がいかに駄目な人間なのか思い知らされます。

1度目は、落ち込みはしても「来年巻き返せばいい」と納得できたでしょう。

しかし2度目の落ち込みは更に深く、3度目は地中にのめり込むような落ち込み

今いる場所が暗ければ暗いほど、明るい場所がより明るく輝いて見えるものです。

今の所、最も深い場所から抜け出せずにいるようですね。

奴隷の値段

空返事に付いた値札が下級労働者の最低賃金

出典: 奴隷の唄/作詞:小池貞利 作曲:小池貞利

例えば新しい仕事を探すとき。雇用者は誰だってやる気が漲っている人材を採用したいものです。

しかし、面接の席では上の空、何を訊いても「はい」ばかり。

どうしても人手不足で採用を余儀なくされたとしても、まともに働いてくれるか分からない人間に高い賃金は提示しないでしょう。

ここでお気づきでしょうか。『何を訊いても「はい」ばかり』という部分。

「イエス」は、奴隷が主人に対して許されたたったひとつの返答です。

つまりこの曲の主人公は、奴隷のような生活を続けるうちにいつの間にか奴隷としての振る舞いを身につけてしまっているのです。

世の中には必要とされない人間が「いる」?

奴隷は氷河期の世に慣れて もう道は未知、停滞
居なくても問題無い場所で吸う息は苦い

出典: 奴隷の唄/作詞:小池貞利 作曲:小池貞利

人の感情を受け取ったり、人に感情を送ったりしない、まるで「物」のような状態です。

そんな彼に、周囲の人々が暖かく接することはないでしょう。それを「氷河期」に例えています。

周囲の冷たさはもう随分長いこと続いていて、雪や氷に閉ざされた世界がいつ終りを迎えるのか分かりません。

終わりに向かう方法も分からず、その場に居続けるしかないのです。

冷ややかな空気の中で空返事ばかりする彼に重要な仕事なんて与えられません。

「立て看板」はそこにあることで仕事をしますが、おそらく彼に与えられた仕事はそれ以下。

必要とされていないのです。

奴隷は用無しと咎されて もう脳は機能停止、灰
目手耳足口が思うよう動かぬようです

出典: 奴隷の唄/作詞:小池貞利 作曲:小池貞利

主人からの命令で労働をしているのが奴隷です。

ですから主人は、奴隷にしっかり働いてもらうために食事などを与える必要があります。

奴隷を従えるのにもコストがかかるということですね。

逆にいえば、働かなくなった奴隷はお金がかかるだけ。従えておくだけ損になります。

主人の元から追放された奴隷はお金も持たず、生きていくことができません。

先程の「空返事」の彼もおそらく、雇用主から解雇されたのでしょう。

そこにいるだけ、という仕事もろくにこなせなかったのです。

本来であれば、次の仕事はどうしようか、生活費はいくら残っているかなど考えることは沢山あります。

しかし彼はそれすらできません。

自分は最低賃金に値づけされ、猫でもできそうな仕事も果たせず解雇されたという事実。

それを認識しているだけに、茫然自失です。

頼るべきは誰なのか

思いがけない状況を目にして、彼は今までの自分の姿を振り返ります。

そして大きな「気づき」を得て、考え方を変えたのです。

自由を求めて頼りを捨てる

昨晩作った負の引っ掻き傷、かさぶたにすらならないまま
血の滲みが滴る頃に消えない後悔の多さに驚いた

出典: 奴隷の唄/作詞:小池貞利 作曲:小池貞利

よほど大きな傷でないかぎり、出血は自然に止まります。血液中の血小板という成分が血液を固めてくれるのです。

しかし彼の出血はひと晩経っても止まりませんでした。そして、ふと気づいたことがひとつ。

誰かに頼らなければ生きていけない自分の姿です。

血が止まらないのなら、絆創膏を貼ればいい。それなのに彼は「いつか止まる」と思ってひと晩放置しました。

血小板の存在に頼りすぎているのです。

奴隷のように過ごしていた頃は、主人に頼り切っていました。

そのため、捨てられた途端茫然自失になってしまったのです。

彼が気づいた後悔は、「頼れる存在を失った後悔」ではありません。

「人に頼って生きてきた後悔」です。