クイーンにはこんな「独りよがり」、つまり自分勝手な恋人に翻弄される曲がもう一つあります。

作詞作曲は「I Want To Break Free」と同じ、ベーシストのジョン・ディーコン

「恋のゆくえ」という邦題のついたこの曲では、「君」について皮肉たっぷりに語られています。

Never contemplating my point of view
This comes as no surprise
I'm a fool, for I believed your lies
But now I've seen through your disguise
Who needs, well I don't need,
Who needs you?

出典: Who Needs You/作詞:John Deacon 作曲:John Deacon

和訳すると、やはり「I Want To Break Free」と似通った「君」の像が浮かんできます。

僕の意見なんか気にもとめない
そんなの驚くようなことじゃないけどさ
僕は馬鹿だから、君の嘘を信じてしまったんだ
だけど今なら、仮面の下を見透かせる
誰が…まあ僕はごめんだね、
誰が君なんか必要とするんだろ?

出典: Who Needs You/作詞:John Deacon 作曲:John Deacon

元の曲ではこの後に、相手との関係にうんざりし、別れを告げようとする様子が描かれます。

注目したいのはタイトルにもある「needs」という単語です。

「loves」ではなく「needs」。

「愛する」ではなく「必要とする」という表現を使ったのです。

恋愛関係を描くなら「君を愛する人なんかいるの?」の方がわかりやすいでしょう。

けれどそうではなく「君を必要とする人なんかいるの?」としているのです。

その真意とは、一体何なのでしょうか。

この曲の中にも

そういえば先ほどの歌詞に、こんなフレーズがありました。

You're so self satisfied I don't need you

出典: I Want To Break Free/作詞:John Deacon 作曲:John Deacon

君のことを必要としていない、と言い切る主人公。

けれど状態は「Who needs you」の主人公と同じである様子。

つまり、吹っ切ることができずに「君」のことを考え続けているのです。

この「必要とする」という感情が、彼にとって、そして誰にとっても厄介なのです。

ことに、人と人との関係においては。

不自由から抜け出すには

「近すぎる」という足枷

自分を振り回す存在なのに、憎みきれない。

あるいは、嫌だと思っている対象なのに、なぜか離れられない。

そんな思いに苛まれたことはあるでしょうか。

例えば、相手と共依存の関係にあるとか。

あるいは、相手があまりにも魅力的すぎるために、短所など気にもならないとか。

要因は様々ですが、誰かとそんな「近すぎる」関係になってしまうことは、珍しいことではありません。

その関係が揺らぐのは、そうなっている自分に気付いた時です。

振り回されている自覚が芽生え、このままでは自分がだめになってしまうと思った時。

人は相手から「自由になりたい」と考えるものではないでしょうか。

孤独への恐れに阻まれて

けれど、そんなずぶずぶとした関係になってしまった場合。

それを解消するのは容易なことではありません。

心のどこかで、相手を必要と思ってしまう

相手がいなければ自分は孤独だと思ってしまう。

そんな考えに囚われて、簡単には抜け出すことができなくなってしまいます。

「君」のように自分を第一に考えられる人は、どちらかというとそうはなりづらいのかもしれません。

相手に合わせて巻き込まれてしまう主人公のような人ほど、逆に心の奥でそんな相手を求めてしまうのです。

そんな関係は、恋愛に限らず、色々な関係性の中でみられるものではないでしょうか。

家族や友人、はたまた社会的な集団などにおいて。

「自由」と「自立」

それでも、「自由になりたい」

I've got to break free
I want to break free, yeah

出典: I Want To Break Free/作詞:John Deacon 作曲:John Deacon