共感する「君」

海は君よりも歌っていた。
街は君よりも歌ったふり。
それらにあなたは耳を傾けるから
まわりを吸いこんだ君が1番悲しそうさ。寂しそうさ。

出典: ハナヒカリ/作詞:たかはしほのか 作曲:たかはしほのか

海が発する歌声とは、波音のことでしょうか。

自然にあるものは何らかの音を発しているといわれています。

それが人間には聞こえない、聞こえづらいだけだというのです。

「町」はある種、人工的な風景ですから、「ふり」しかできないのかもしれません。

それら自然の音を、耳に入れないという選択肢もあります。

しかし「君」は自然の音に気づき、じっくりと聞くのです。

ただ「聞く」よりも「耳を傾ける」方が、繊細なところまで聞こうとする態度が伝わります。

発される歌は悲しいものだったのかもしれません。

聞こえない歌を耳にした「君」は、流れる感情に深く共感します。

「吸い込む」という言葉から、自分の心にまで深く取り込んでいることが分かるからです。

結果、主人公には「君」がネガティブな心情を抱えたように見えるのでした。

曲中では、主人公の目から見たことが歌われているので、確かなことは言えません。

しかし、実際に「特に繊細な人」は一定数存在します。

また、高い共感力を備えているとも言われているのです。

彼らは他人の痛みや感情を自分のことのように感じる力があります。

「君」にも、同じような力があるのかもしれません。

だからこそ景色の中に流れる悲哀のようなものを感じ取ってしまったのでしょう。

変化の気配

戦前の兵隊さん、
綺麗なものが好きな人。
あなたはね、これから街のどこをみるの?
僕のどこをみるの。

出典: ハナヒカリ/作詞:たかはしほのか 作曲:たかはしほのか

「君」が変化してしまう、境目のような部分です。

ここでは1行目と3行目が対比されているように思われます。

1行目で使われている「前」と、3行目の「これから」です。

1行目は戦争前を、3行目以降は、戦時中から戦後にかけてを表すのではないでしょうか。

また、初めて登場する二人称「あなた」も印象的です。

これは「君」と同一人物に対する呼びかけだと思われます。

しかし「あなた」の方がよそよそしい印象を与える言葉です。

「君」が戦争に関わったことで変わってしまったことの表れかもしれません。

これを踏まえて1行目を見直すと、ここの「兵隊」も「君」と同一でしょうか。

自然の風景に秘められた美しさに気づき、それらとともにあった人です。

しかし3行目には、もう自然を連想する言葉はでてきません。

あるのは人工的な「町」だけです。

自然を顧みなくなり、心の持ちようが変わってしまったことを感じさせます。

忘れてしまったもの

ハナヒカリ思い出せ。
夜の空の放物線。
飛び交ったF-16、光る君はあれに乗らないで。

出典: ハナヒカリ/作詞:たかはしほのか 作曲:たかはしほのか

曲は再びサビにさしかかります。

ここでは単なる回想ではなく、命令形であることがポイントです。

「君」に強く語りかけているのでしょうか。

ここで使われる「放物線」も、戦闘機を表す可能性があります。

続く行には、戦闘機の具体的な機体名まで登場しています。

ここまで歌詞を見てくることによって、初めて主人公の願いが具体性を増してきます。

しかし、主人公の願いは結局叶いませんでした。

美しい自然に触れていた「兵隊」は「兵士」となり、戦いに出て行ってしまったのです。

曲の時代設定は第二次大戦ではない?

リーガルリリー【ハナヒカリ】歌詞の意味を解釈!戦火の中で何を見る?美しくも悲しい君との思い出を紐解くの画像

戦闘機F-16は、70年代に開発されたアメリカの飛行機です。

日本で「戦争」というと、悲惨な第二次大戦を思い浮かべることが多いかもしれません。

しかし、太平洋戦争中は、まだF-16が発明されていない時代。

この曲はもっと後の戦争を舞台にしたものといえそうです。

大きな疑問 「君」の正体は?

歌詞の中で、大きな疑問が生まれたのではないでしょうか。

ずばり、「君」と主人公の関係についてです。

2人は友だち? 家族? あるいは、恋人でしょうか?

それぞれ考察してみましょう。

1、「君」は主人公の友達

まずは友だち説からです。

同性、異性に関係なく、友達のことを「きれい」と思う瞬間はあるものです。

不自然なことではないと思います。

2人が友人だと考えて歌詞を見ても、主人公の抱く願いは自然です。

友だちが持っている繊細な感覚を大切にしてほしい。

そんな願いが込められているのではないでしょうか。

仲の良い友だちだからといって、価値観まで完全に同じことはありません。

繊細な感覚は、主人公にはないものだったのではないでしょうか。

そして主人公は、その繊細さが好きだったのかもしれません。

だからこそ、変わらないでいることを願ったのかもしれません。