本日の 宿題は 無個性な 僕のこと
過不足無い 不自由無い 最近に 生きていて
でもどうして 僕達は 時々に いや毎日
悲しいって言うんだ 淋しいって言うんだ

出典: ロストワンの号哭/作詞:Neru 作曲:Neru

自分に独自性が欠けていることに、「僕」自身もうっすら気付いているのでしょうか。

自分自身のこととなると、急に筆が進まなくなってしまうようです。

「ロストワン」の人達は、その存在を他人に気づかれることも少ないといいます。

いわゆる「影が薄い」子どもなのです。

独自性が薄いという自覚が、その子の存在をさらに薄れさせているのかもしれません。

それが根源的な孤独の原因の1つといえるでしょう。

とはいえ現代社会に生きていれば、別の見方をすることもできます。

「そんなことで悩むなんて、恵まれている」という考えです。

仮に原始時代や戦時中など、命が常に危険にさらされている時代を考えます。

その時代に生きる人たちの第一目標は、命を落とさないことです。

生き延びることが最も重要で、その他のことは後回しになります。

その点、「僕」は生命の危機を感じているわけではありません。

ある意味恵まれた生活です。

そう考えてはみても、「僕」の孤独が消えるわけではありません。

それがなぜなのか、「僕」自身にも分からないのです。

もう1人の「僕」

歌詞では、「僕たち」と複数形の「僕」が登場しました。

MVでは、もっと直接的な形でもう1人の「僕」が現れます。

顔を白い紙で隠した少年です。

背格好、同じ学生服、同じ髪型であることから、「僕」ともう1人は同一人物なのでしょう。

唯一の違いは、もう1人は顔が見えないことです。

顔は、その人らしさを表す重要な部位になります。

顔を隠されるだけで、その人の個性はほとんど見えなくなってしまうほどです。

表情の見えない、もう1人の「僕」。

これは現実世界に生きる「僕」そのものではないでしょうか。

長年自分の存在を薄く薄くしてきたせいで、本当に個性をなくしかけているのです。

対して顔が見えている方の「僕」は、「僕」自身の心といえるでしょうか。

本当に無感覚になる前に、「僕」に何かを伝えたがっているのかもしれません。

できること、できないこと

黒板のこの漢字が読めますか あの子の心象は読めますか
その心を黒く染めたのは おい誰なんだよ おい誰なんだよ
そろばんでこの式が解けますか あの子の首の輪も解けますか

出典: ロストワンの号哭/作詞:Neru 作曲:Neru

畳みかけるように問いかけが重なります。

このフレーズは曲中で何度も登場しますが、共通することが1つあります。

前半の問いは、答えが明確な問題。

そして後半の問いは、回答が非常に難しいのです。

理系科目が得意な「僕」は、前半の問いに正しく答えられるでしょう。

しかし、明確な答えのない後半の問いには、「分からない」あるいは無回答ではないでしょうか。

答えることができないのです。

相手の視点に立って考える事、想像力、共感力。

人生の中で課題を解くためには、これらの「人間力」とでも呼ぶべきものが必要です。

自分を抑圧してきた「僕」には、この人間力が欠けています。

心を抑えこんできたのですから、相手の心に寄り添うことが難しいのでしょう。

僕達このまんまでいいんですか おいどうすんだよ もうどうだっていいや

出典: ロストワンの号哭/作詞:Neru 作曲:Neru

「僕」の心は、現状に不安と不満を抱いているようです。

このままではいけない、だからこそ現実世界の「僕」に問いかけています。

しかし、今のところ回答は得られていません。

「僕」の心も投げやりになっています。

ふくらむ葛藤

「僕」たちを酔わせるもの

いつまで経ったって僕達は ぞんざいな催眠に酔っていて

出典: ロストワンの号哭/作詞:Neru 作曲:Neru

「僕」たちを酔わせるものとは、一体なんなのでしょうか。

これは、学生時代に受けつけられた優等生的な振る舞いと考えられます。

学生時代は、学校と家庭の往復が世界のほとんどすべてです。

特に、この曲の主人公は「ロストワン」と呼ばれるアダルトチルドレン。

彼は家庭で必要なケアを受けられなかった可能性が高いのです。

子どもであった彼は、家では気配を消すように縮こまるしかありませんでした。

学校では校則に従うことが求められ、勉強や部活に真面目に取り組む姿勢が求められたでしょう。

おそらく、そこからネガティブなメッセージを受けとり続けていたものと思われます。

いてもいなくても変わらないように振る舞うこと、可もなく不可もない学校生活を送ること。

そうすれば、「僕」は目立たない存在で居続けることができたのです。

さらに、学校で身につけた真面目な姿勢は、会社でもある程度の評価を受けます。

仕事に不真面目な人は悪目立ちしますが、真面目に働いていれば目立ちません。

みんなと同じように振る舞っていることが「良い」こととされているのです。

一転、これは唯一絶対の正解ではありません。

「一流」や「偉人」と呼ばれるのは、それらの固定観念を打破する人だからです。

歴史がそれを証明しています。

真面目に、みんなと同じようにというのはある種の嘘です。

少し知識がつけばそれに気づくことができる雑なものといえます。

「僕」も、それに気づいてはいるようです。

ところが、それに酔わされることをやめていません。

変化を生むことには大きなエネルギーと決意が要ります。

心に傷を抱えたままの「僕」は、現状維持を選んでいるのでしょうか。

どうしようもない位の驕傲をずっと 匿っていたんだ

出典: ロストワンの号哭/作詞:Neru 作曲:Neru

「驕傲」は「きょうごう」と読み、「おごりたかぶること」を意味します。

どうやら「僕」は他人を見下すことが思考の癖になってしまっているようです。

なぜ、人は誰かを見下すのでしょうか。

理由の1つは、自分に自信がないからです。

自分が、誰かより劣っていると感じる。

人はそれを認めたくないものです。

だから、自分より下位の人がいると思いこんで、小さな自己満足をします。

自分を守るために、誰でもいいから自分より下の人を見つけようとするのです。

「僕」も似たような心理状態で、自分を守ろうとしていると思われます。

自分のことが分からない