マリリン・モンローの後継者の登場

マドンナ【マテリアル・ガール】歌詞を和訳して解説!ある意味憧れる女性!?「マテリアル」の意味って?の画像

Some boys romance, some boys slow dance
That's all right with me
If they can't raise my interest then I
Have to let them be

出典: マテリアル・ガール/作詞:Peter Brown Robert Rans 作曲: Peter Brown Robert Rans

男の子たちの呑気さと比べると女の子の意識のシビアさが際立ちます。

「ロマンスを演じる男の子たちもいるし スローダンスに興じる男の子たちもいる

そんなの別に私は大丈夫なのだけれど

私の興味を惹けなかったら

彼らはお断りするわ」

ここでも女の子は「上から目線」で男の子たちを品定めします。

男の子たちはあの手この手で女の子を口説くのですが彼女の価値観ではズバリ落第するのです。

先程見たようにこの女の子はあくまでも「マテリアル・ガール」。

ロマンスが社会を生きる上で何の役に立つのだろうくらいの気持ちがあるはず。

暇つぶしには丁度いいけれど、本気にはならないの。

そんな気持ちが透けて見えます。

この時代は日米貿易摩擦などがありました。

言い換えれば経済の領域では超大国アメリカと日本が張り合えた稀少な時代だったのです。

日本でも好調な経済を背景にこうした現金な女性たちが増えてきた時期でしょう。

「マテリアル・ガール」の背景にある皮肉まで読み込むことなくマドンナを愛した時代。

見た目の美しさに目を奪われて新時代のマリリン・モンローとして歓迎します。

しかしマリリン・モンローも素顔は真摯な女優であったように、その後のマドンナも時代の闘士になりました。

まだマドンナというアーティストの真価が分からないままに受容していたある意味お気楽な季節

それが「マテリアル・ガール」が受けた所以でしょう。

小銭を貯める少年が一番

この曲の受容のされ方はコメディのよう

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Some boys try and some boys lie but
I don't let them play(no way…)
Only boys that save their pennies
Make my rainy day

出典: マテリアル・ガール/作詞:Peter Brown Robert Rans 作曲: Peter Brown Robert Rans

遊び人の男の子たちは論外なようです。

「頑張っている男の子たちもいれば うそぶく男の子たちもいるけれど

遊んでいるだけの輩たちはごめんだわ

小銭を貯め込んでいる男の子たちだけが

私が経済的に苦しいときに役に立ってくれるの」

遊び人は浪費癖があるので女の子の審美眼では落第するのでしょう。

その代わりにこつこつと貯金をしている男の子は頼れる人間として最大の信頼を寄せます。

「マテリアル・ガール」は意外なようですが派手な遊びはしないようです。

堅実な倹約家を好きになる。

好きにならなくても困ったときに頼りにする。

「失われた30年」を経た今の日本ではこの価値観は受け入れられやすいものかもしれません。

一方でバブル経済前夜はとにかく享楽的に過ごしていた日本の若者たち。

この傾向の中で若い女性たちは実際にはあまりお金を使いませんでした。

というのは男性が女性のために交通費含めてお金を出すのが当たり前のマナーという時代だったのです。

若い女性たちの中にはブランド品に身を包むようなことを一番価値のあることと考える人たちもいました。

そのブランド品も男性たちに貢がせたものこそがいい女の条件だと思っていた節があります。

今は遠い昭和の話です。

しかしこうした時代背景の中でマドンナは日本でも旋風を起こします。

経済が好調だった先進国では彼女のゴージャスな美しさが羨望の的でした。

マドンナ自身がアメリカン・ドリームを昇りつめて超VIPの仲間入りをします。

そうすると彼女自身がお金に困るようなシチュエーションはなくなるのです。

小銭をこつこつ貯めるようなタイプの男性に惹かれる訳がないでしょう。

しかしマドンナに憧れる女性たちは「マテリアル・ガール」の後追いを続けるのです。

それはもはや救われないコメディのようでしょう。

歌は時代を映すとは「マテリアル・ガール」のためにある言葉かもしれません。

相変わらず「上から目線」

マドンナは稀代のショー・ガール

マドンナ【マテリアル・ガール】歌詞を和訳して解説!ある意味憧れる女性!?「マテリアル」の意味って?の画像

Boys may come and boys may go
And that's all right you see
Experience has made me rich
And now they're after me

出典: マテリアル・ガール/作詞:Peter Brown Robert Rans 作曲: Peter Brown Robert Rans

間にリフレインを挟みます。

繰り返しになりますので訳出を省きました。

「男の子は近寄ってきたかと思えば 立ち去ってゆくのね

別にそれで構わないわ 分かるかな

経験は私を豊かにしてくれる

そして今では男の子たちは私を欲しがるわ」

「マテリアル・ガール」である女の子もどこか達観してきました。

歌詞の中で大人の情緒が芽生えたのかなとも思うのですが、もう少し慎重に見ていきましょう。

相変わらずの「上から目線」で男の子たちは皆が私の虜よと歌います。

絶対的な自信の裏付けがある女性を演じられるのはマドンナしかできないことだったのかも。

傲慢ささえ滲むのですがこれは最強の女性のマドンナの歌。

とはいえマドンナはブレイクするまで辛酸なめた苦労人中の苦労人としても有名です。

美貌は不遇な時代から健在でしたが、美人故に背負った苦労が多すぎました。

「若い頃の苦労が実を結ぶ」という表現にするには若すぎる歳で大ブレイクを成し遂げます。

しかし大ブレイクした後にメディアが彼女の暗い過去を掘り下げるような真似を盛んにしました。

有名税というものがあるにしても可哀想な境遇。

彼女はそうした苦労を思い起こしながら「私はマテリアル・ガールではない」と主張したのでしょう。

様々なスキャンダルで浮き名を流しました。

しかし一方でシリアスな局面で政治文化や社会問題に切り込む姿勢を毅然と示します。

総体として彼女の社会的地位や尊敬の度合いは年々増すばかりです。

それでも今なおステージで「マテリアル・ガール」を歌うというのもショー・ガールの真骨頂

改めてマドンナはすごい女性アーティストです。

いよいよクライマックスの歌詞になります。

「マテリアル・ガール」と20世紀末

日本での当時の議論は

マドンナ【マテリアル・ガール】歌詞を和訳して解説!ある意味憧れる女性!?「マテリアル」の意味って?の画像

Living in a material world
And I am a material girl
You know that we are living in a material world
And I am a material girl
Au… A material A material A material A material world…
Material… Material… Au… Material…
(Living in a material world…)

出典: マテリアル・ガール/作詞:Peter Brown Robert Rans 作曲: Peter Brown Robert Rans

曲を聴いていただくと分かるはずですがこの間にまたサビのリフレインがあります。

そしてクライマックスの歌詞もまたリフレインを含むのです。

繰り返す箇所は意訳でお届けし直します。

「物欲が渦巻く世界で暮らしている

それに私は物欲の塊みたいな女の子よ

私たちは物欲が渦巻く世界で生活していることを人は知っているわ

そして私は物欲が大好きな女の子なの

Au… 物質の 物欲の 世俗的な 肉体的な世界…

物質… 物欲… Au… 世俗的…

(物欲の世界で暮らしている…)」

改めて読み直すと、やはり皮肉が効いた歌詞であるなと確認できます。

観念と物質に関する議論、「マテリアル」という言葉への深い考察

これらは今の日本ではあまり見られない議論ですが、1984年の時点ではまだ身近な議論だったのです。

日本で勃興したニューアカデミズムがこの頃に活性化しています。

マドンナの「マテリアル・ガール」についてももっと深い洞察が行われたかもしれません。

ただこの記事は歌詞の和訳と解説が主眼ですので、そうした時代背景の紹介だけで済ませます。

おそらくこの件について深い議論を始めると一冊の著作に収まるほどのボリュームになるでしょう。

この記事では「物質中心主義の世界」が転じて「物欲が渦巻く世界」になった。

こうした事実を列挙して触れるにとどめます。

現代資本主義の最奥の秘密が描かれた曲