湿気った花火の抜け殻
押入れで出番を待った
煙たがっている
でも嬉しそうな
君を浮かべた

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太

僕は君と夏を迎えるのが楽しみだったのでしょう。

夏が来る前から花火を買っていたのか、一年前の夏に買っておいたのか。

長く保管してあった花火は、梅雨を経た押入れの湿気で変質してしまいます。

もしもこの花火にライターの火を近づけたとしても、着火しないかもしれません。

うまく火がついたとしても、湿気た火薬は花開かず、ただただ紙が燃えて煙が立つだけ

それでもきっと君は、そんなアクシデントさえ楽しんでくれる人だと僕は知っています。

ただの棒きれと化した花火を燃やしていく炎。笑顔で見惚れる君が目に浮かびます。

本を読み込んで
君は真似しだして
いつの間にか膝の上で眠って居た秋

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太

読書の秋だから本を読もう」とどちらかが発案したのかもしれません。

君は真剣な面持ちで本を読んでいました。

と思えば、今度は本の登場人物になりきって、セリフを真似てみたり。

まるで「秋の空」のようにコロコロと表情を変える君は、きっといつもの君。

忙しなく、しかし楽しそうにしていた君は、気づけば僕の膝でひと休みしていました。

寒いのは嫌って
体温分け合って
僕は凍える季節も
あながち嫌じゃなくなって

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太

季節はめぐり、冬が訪れました。

寒さから逃れるために暖かな室内に逃げ込むわけではありません。

二人は、お互いの体温で暖をとることを選びました。

寒さは得意ではなかった僕ですが、寒いのも案外悪くない、なんて思い始めます。

暖かくいられるのは、君がいるから。温め合う相手は君以外考えられません。

この時僕は、君を失うことを想像していたでしょうか。

映画の主人公・春樹は、余命が尽きるまでまだ時間があると思っていたかもしれません。

映画とは関わりのない僕は、また来年もあるからと気楽に考えていたでしょう。

しかし、来年も二人の間に必ず冬が訪れると、言い切れるでしょうか。

遅いと知りながらも募る後悔

ありがとうも
さようならも
此処にいるんだよ
ごめんねも
会いたいよも
残ったままだよ

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太

何となく照れくさくて言いそびれてしまった君への感謝の気持ち。

いつか伝えようと思ったままでした。

別れが来るのなら、事前に知らせてくれるサービスでもあったらいい。

しかし現実は残酷で、明日、半日後、一時間後、五分後に何が起きるか分かりません。

別れの言葉も伝えられないまま、まだ僕の中に残っています。

「君を病気から守ってあげられなくてごめんね

別れを知っていれば、そう伝えられたかもしれません。

君を喪ってしまった今、「会いたい」という言葉は行き場をなくし僕の中にあります。

嬉しいよも
寂しいよも
置き去りなんだよ
恋しいよも
苦しいよも
言えていないんだよ

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太

僕は素直な気持ちを口に出すのが苦手な性格なのでしょう。

それではまずいと、嬉しいときや寂しいときにはできるだけその素振りを見せる努力をしたのかもしれません。

しかし君に伝えるには少し足りませんでした。

君に伝えきれなかった僕の感情を、君は向こう側の世界に持っていかず、こちらに残したまま。

でも君には、伝えたいと思ったのです。だから努力をしたのです。

君を喪った今、想いや喪失の苦しみを伝える相手は、どこにもいません。

君は、僕が唯一心を通わせたいと思った人物なのです。

「僕」を変えた「君」

君と過ごした日々を思い返すうちに「君がくれたもの」に気づきます。

それは「感じる心」でした。

喪って気づく君の大きさ

また風が吹いて
思い出したら
春夏秋冬
巡るよ

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太

冬が春の尻尾をとらえ、一年前と同じ冷たい風が桜の花を散らします。

そして僕は今年も、君と過ごした春夏秋冬をひとつずつ思い出すのでしょう。

思い出すたびに、違った景色が浮かぶかもしれません。

しかしどれも君との思い出です。

つまり、僕が望めばいつだって君と四季を辿れるのです。

ご飯の味
花の色
加工のない甘い香り
人肌を数字じゃなく
触覚に刻んでくれた
鼓膜にはAh
特別なAh
五感の全てを別物に変えてくれた

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太

君と出会うまでは、どこか味気ない日常を過ごしていた僕。

君を知り、共に過ごすようになり、様々な物事を「感じられる」ようになりました。

楽しく食事をすれば味が変わります。

今までは見ようともしなかった桜の花びらも、よく見れば一色ではなかったり。

君はコロンや化粧品の匂いとは違う君だけの香りがしました。

君の体温が何度なのかは分からなくても、触れればそれが君の温度だと分かるでしょう。

すぐ近くで君が囁いたときに感じるこそばゆさは、僕にとって初めての経験。

君がいることで、今まで見過ごしてきたことに興味が湧きました。

気にもとめなかったことを「感じられる」人間へと変わったのです。

今更ね
あれこれね

出典: 春夏秋冬/作詞:片岡健太 作曲:片岡健太