森進一という「流行歌手」

『港町ブルース』は森進一の大ヒット曲!紅白にもトリで出場!港町を巡る歌詞の意味を考察!動画も?の画像

森進一と言えば「ハスキーボイスの演歌歌手」と認識している人が多いでしょう。しかし、森はもともとはいまのような独特のハスキーボイスの持ち主ではなく、歌うのは演歌だけではありません

デビューは1966年ですが、その前年までは声は特にハスキーでもなく、容姿も整っていることからポップス歌手としてデビューすべくレッスンしていました。しかし才能を見出した恩師が言ったのです。

「このままでは個性が弱い」

「売れるために声に特徴を持たせて演歌を歌うべき」との指示により、森はわざと声を枯れさせてデビューしたのでした。この声を聞いた作詞家なかにし礼は「なんと汚い声だ」と言ったと言います。

しかしのちに、類を見ない個性的な声だとして、なかにしは自身が補作詞した「港町ブルース」を歌わせることにしたのだというエピソードが残っています。

自身の声について森は近年、週刊誌でこのように発言しています。

「しゃがれ声ってのはね、出口です。声帯からこうやって出てきて、喉のところでパッとしゃがれる。問題は声ではなく、人間の質なんです」

ほかの誰にもない個性的な声を得て、これ以上ないと言うほど心を込めての歌唱は聴く者の心を揺さぶります。B'z稲葉浩志「ソウルフルなシンガー」の一人として森の名を挙げたことがあります。

他ジャンルのシンガーにも伝わる「心」が森の歌唱には込められているのです。このように、森の歌は演歌というひとつのジャンルにとどまるものではありません。

森自身、「演歌歌手と呼ばれたくない、自分は流行歌手だ」と週刊誌で発言しています。演歌歌手としてデビューはしましたが、1970年代半ばから演歌の枠に収まらない曲も歌うようになっています。

吉田拓郎「襟裳岬」、シャンソン歌手アダモ作曲「甘ったれ」、大瀧詠一の「冬のリヴィエラ」……いろんなジャンルのさまざまな曲調を、森は次々と歌いこなします。

また、2017年リリースのアルバム「Love Music」では平井堅「瞳をとじて」中島美嘉「雪の華」などをカバーしています。 

音楽に壁をつくらない。いい音楽ならばどんなものでも自分の中に取り入れたい。そのように音楽に和して森進一という流行歌手は歌い続けます。

「港町ブルース」

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「港町ブルース」でトリ!

1969年リリースの「港町ブルース」は森進一の12thシングルです。森にとって最大のヒット曲で、50万枚売れば大ヒットという時代に250万枚以上のセールスを記録したとも言われています。

多くの人に聴かれた「港町ブルース」は年末には日本レコード大賞最優秀歌唱賞及び日本有線大賞を受賞し、森は第20回紅白歌合戦に2回目の出場を果たします。

しかもこのとき、森は出場2回目にしてトリの大役を務めることになったのです。トリとは、最後の演者のことを言いますが、これは舞台を最後にまとめ上げる重要な役です。

大抵はキャリアの長い実力者にトリは任されます。しかし、このとき森はデビュー3年目の若手でした。「港町ブルース」が大変なヒット曲であったと、森の歌が周囲に認められたのだと分かります。

港町ブルース [EPレコード 7inch]
Posted with Amakuri at 2018.4.17
森 進一
日本ビクター

登場する港町

「港町ブルース」の歌詞には、タイトル通りにたくさんの港町の名前が登場します。函館、宮古、釜石、気仙沼……登場するのは概ね横浜港や名古屋港のような巨大な港ではありませんが、重要な港です。

下記は歌詞に登場する港とその所在地の一覧です。

  • 函館港…北海道函館市
  • 宮古港…岩手県宮古市
  • 釜石港…岩手県釜石市
  • 気仙沼港…宮城県気仙沼市
  • 三崎港…神奈川県三浦市
  • 焼津港…静岡県焼津市
  • 御前崎港…静岡県御前崎市
  • 高知港…高知県高知市
  • 高松港…香川県高松市
  • 八幡浜港…愛媛県八幡浜市
  • 別府港…大分県別府市
  • 長崎港…長崎県長崎市
  • 枕崎港…鹿児島県枕崎市
  • 鹿児島港…鹿児島県鹿児島市

最北は北海道の函館港。そこから歌詞の登場順に南下していきます。歌詞は6番まであり、6番には「ここは鹿児島 旅路の果てか」と最南端として鹿児島港が登場します。

全部で14の登場港のうち、9つの港が港湾法上の重要港湾で、3つが特定第3種漁港。肩書きのない一般の港湾は1ヶ所だけです。

国際もしくは国内海上輸送の拠点となる港として港湾法で定められているのが重要港湾、水産業振興のため特に重要であると定められた漁港が特定第3種漁港です。

2番の歌詞に登場する「三崎港」は実は2ヶ所あります。1ヶ所は神奈川県三浦市。こちらは詳しく言うと「三崎漁港」です。もう1ヶ所は愛媛県西宇和郡伊方町にある港です。

歌詞では「三崎」としか呼ばれないので漁港の方なのか愛媛県の方なのか迷うところですが、2番の歌詞では気仙沼港の次に「三崎 焼津に 御前崎」と登場しているので、三崎漁港のことと考えられます。

愛媛県の港としては4番に八幡浜港が登場しますので、この点からも「三崎」は愛媛県ではないと考えるのが妥当でしょう。

八幡浜は「やわたはま」と読みますが、森は「港町ブルース」歌唱時には「やはたはま」と発音しています。

「港町ブルース」の歌詞を味わう

森進一の歌唱動画

森がテレビ番組で「港町ブルース」を歌ったものの録画です。歌の前に「港町ブルース」を作曲した猪俣公章の「森進一」についてのコメントが入っています。

猪俣のコメントも興味深いので、歌と合わせてそちらもお聞きください。

歌詞を読んで味わう

日本各地の港町をの名が登場する「港町ブルース」の歌詞を読んでみましょう。

歌詞は1番から6番まであり、それぞれの冒頭に漢数字が打ってあります。これは歌詞の一部ではありますが、森の歌唱を聴いてもお分かりの通り、歌う部分ではありません。

一、背のびして見る 海峡を
今日も汽笛が 遠ざかる
あなたにあげた 夜をかえして
港 港 函館 通り雨

二、流す涙で 割る酒は
だました男の 味がする
あなたの影を ひきずりながら
港 宮古 釜石 気仙沼

三、出船 入船 別れ船
あなた乗せない 帰り船
うしろ姿も 他人のそら似
港 三崎 焼津に 御前崎

出典: 港町ブルース/作詞:深津武志 補作詞:なかにし礼 作曲:猪俣公章

歌詞の主人公は女性のようです。「あなた」は船乗りでしょうか。海峡を「背のびして」見るのは、「あなた」を乗せた船が帰ってくる影を探しているのでしょう。

2番で「だました男の」「あなたの影を」という言葉が出てきますが、これはおそらく同一人物、「だました男」=「あなた」でしょう。

宮古・釜石・気仙沼の3港は岩手県と、岩手県との県境に近い宮城県というそれぞれが近い位置にあります。北海道から東北まで主人公の女性は「あなた」を追ってきたようです。

かと思うと、後を追っても「うしろ姿も他人のそら似」と出会えないまま三崎・焼津・御前崎と、中部地方にまで南下しています。「あなた」はどういった船に乗ってどこへ向かったのでしょう。