はじめに
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』挿入歌

1997年7月に公開された、新世紀エヴァンゲリオンの劇場版の挿入歌であるこの曲。
劇場版のタイトルは『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』。
あまり知られていませんが、新世紀エヴァンゲリオンの原作はアニメであり、劇場版とは別作品です。
もともとアニメシリーズは相当難解な描き方をされていました。
そのため、ファンからそれを補完してほしいという意見があり劇場版が制作されたのです。
その他に漫画化もされていますが、そちらも原作とは別の作品となっていますので注意しておくとよいでしょう。
監督・庵野秀明による仕掛け
また、曲名はドイツ語で読み方は「コム・ズゥーサー・トート」となるようです。
しかしながら歌詞は英語であり、監督の庵野秀明によってまず日本語詞が書かれました。
そしてそれを海外の作詞家に英訳してもらったものが、完成した曲の歌詞になります。
紆余曲折あった物語がすべて円満に解決し、ハッピーエンドを迎えたかのような曲調。
しかし実際にこの曲がかかるタイミングは、それとはまるで正反対にあるかのような世界滅亡のシーンです。
厳密には世界滅亡ではないのですが、それに等しいような過酷な状況下で流れたこの曲は大変話題になりました。
そんな不思議な魅力をもった【Komm,su[:]sser Tod~甘き死よ、来たれ】の歌詞解説をしてまいります。
新世紀エヴァンゲリオンの基本となる設定
ATフィールドの正体は?
I know.
I know I've let you down
I've been fool to myself
I thought that I could
Live for no one else
出典: Komm,su[:]sser Tod~甘き死よ、来たれ/作詞:庵野秀明,Mike WYZGOWSKI 作曲:鷺巣詩郎
【和訳】
分かってるよ
分かってるよ、君を失望させたことくらい
僕は誰かのためなんかじゃなく
生きていけるって思っていたんだ
【解説】
新世紀エヴァンゲリオンの主人公・碇シンジのモノローグでしょうか。
シンジは、いつも自分の殻に閉じこもったような、そんな性格をしています。
14歳という思春期真っ盛りということもあって、つねに他人を遠ざけようとするのです。
とくに大人にたいする懐疑的なスタンスは、相当なとがり方。
しかし新世紀エヴァンゲリオンにおいて、この他人を遠ざけようとする力は非常に重要なものになっています。
このことについては、これからの解説でもたびたび登場するかと思います。
先に結論からいってしまえば、この力こそが「ATフィールド」です。
人型決戦兵器エヴァンゲリオンでの戦闘は基本的にはATフィールドによるもの。
だからこそ、強力なATフィールドをもった者たちがパイロットとして活躍していました。
碇シンジ、綾波レイ、惣流・明日香・ラングレーの3人です。
誰かのためではなく自分のために生きようとしていたのは、シンジを含めた若者たちの心だったのでしょう。
碇ゲンドウが暗に押し進めていたある計画
But now through all
the hurt and pain
It's time for me
to respect
The ones you love
Mean more than anything
出典: Komm,su[:]sser Tod~甘き死よ、来たれ/作詞:庵野秀明,Mike WYZGOWSKI 作曲:鷺巣詩郎
【和訳】
だけど
つらさや痛みがすべて去った今
君の愛する人たちを最上とする時が来たんだ
この意味はすべてのものよりも大きいんだ
【解説】
この曲が流れるのは「人類補完計画」という計画の最終段階において。
「人類補完計画」とは簡単にいってしまうと「人類すべてを1つの存在に還元する」ものでした。
ATフィールドがあるから、人は自分以外の人と関わり合いながら生きているのです。
人と人との関わり合いは楽しかったり嬉しかったりする反面、大きな災いも起こします。
究極的には、そんな災いを起こさないようにする方法はただ1つしかありません。
そう、みんなで1つになることです。
そのために考え出されたのが「人類補完計画」だったのです。
この部分の歌詞はこの計画を崇めるような内容でしょう。
みんなが1つになれば、他人との軋轢によって生じるすべての苦痛はなくなります。
そうして、ATフィールドを失った人類は1つの存在になるべく世界の中心に集まってきます。
「サードインパクト」のトリガーとなってしまう
「NERV(ネルフ)」の表向きは
So with sadness
in my heart
I feel the best thing
I could do
is end it all
and leave forever
出典: Komm,su[:]sser Tod~甘き死よ、来たれ/作詞:庵野秀明,Mike WYZGOWSKI 作曲:鷺巣詩郎