それに対して「ラット」はギターのエフェクター「RAT」のこと。
ロックバンド「BLANKEY JET CITY」の「ベンジー」こと浅井健一が愛用していた機材でもあります。
マーシャルの匂いが肺に入り、そこには「ベンジー」が映った。
そんな状態で、彼女はまさにトリップ状態のように興奮していたのでしょう。
この「RAT」はベンジーの他にも、Nirvanaのカート・カバーンも愛用していました。
カートは椎名林檎の楽曲「ギブス」にも登場するように、彼女に多大な影響を与えています。
また、「肺」はトリップして「High」になることの暗示。
「映って」はカートが鬱であったことから「鬱って」とのダブルミーニングとも取れます。
彼女の日常は憂いに満ちている
東京で音楽活動をするも、なかなか芽が出ない彼女。
そんな彼女はギターを弾いている時以外は憂鬱な時間を過ごします。
音楽がないと退屈な日々を送り、暇つぶしの毎日。
そんな彼女の憂いに満ちた日々が2番では歌われています。
メロディは1番と同じでも、歌詞は少し表情を変えるのが特徴です。
そして相変わらずの語呂の良さ。
思わず口ずさんでしまいたくなるような歌詞が並びます。
それに対して、ぱっと見では意味を理解できないような難解な文章。
それでは2番がどのような歌詞なのか、見ていきましょう。
銀座で暇つぶしをする身の無い日々
最近は銀座で警官ごっこ
国境は越えても盛者必衰
領収書を書いて頂戴
税理士なんてついていない 後楽園
出典: 丸の内サディスティック/作詞:椎名林檎作曲:椎名林檎
暇つぶしの毎日を送る彼女はやることがなくなり、銀座で警官の真似事をして過ごします。
この「警官ごっこ」とはローリング・ストーンズの曲から引用されてたフレーズ。
銀座で水商売をする人々は、日本人も外国人も関係なくそのうち老いて衰える。
そんな厳しい競争社会を暗示しています。
音楽活動の一環として事務所とのミーティングが行われ、彼女は領収書を請求。
しかし、税理士などがついているはずもなく経費の処理はしてくれない。
そんな駆け出しのミュージシャンの実情がやけにリアルに伝わってきます。
ちなみに、「盛者必衰」は「歌舞伎町の女王」という楽曲でも示唆されています。
「一度栄えし者でも必ずや衰えゆく」
歌舞伎町の女王ではこのようなフレーズで盛者必衰が表されています。
このように、「無常観」をことさら際立てて表現するのは椎名林檎らしさといえるでしょう。
日本の中心都市、銀座もいずれはさびれゆく。
そこで今は輝く人間も、いずれは老いて死ぬ。
どこか世間を俯瞰したものの見方が、同曲の哀愁を引き立たせます。
そして、それに合わさる少し寂し気なピアニカの音色が、歌詞とよくリンクしていますね。
ピザ屋の彼女とは?
曲は2番のサビに入っていきますが、歌詞はここからどんどん難解になります。
しかしそこにはきちんと意味が。
前述した「ベンジー」への愛はここでもかなり重要な点です。
「ピザ屋の彼女」「グレッチ」など、それぞれの歌詞を紐解いていきましょう。
ベンジー、あなたが恋人だったなら
将来僧になって結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジー あたしをグレッチで殴って
出典: 丸の内サディスティック/作詞:椎名林檎 作曲:椎名林檎
先ほど登場した「ベンジー」こと浅井健一ですが、ここでも登場します。
ここでは「もしもベンジーが私の恋人だったら」という内容が歌詞に表れていますね。
「2人が恋人なら、毎晩ベッドを共にするのに。」
また、「ピザ屋の~」はBLANKEY JET CITYの曲にも出てきます。
このことから、彼女は恋人としてだけでなくベンジーの世界に入ってみたいとの願望もあるのです。
この歌詞に出てくる「グレッチ」はギターの名前であり、これもベンジーが愛用していたもの。
彼女のベンジーへの愛がかなり伝わってきますね。
このように同曲には、ベンジーに対する並々ならぬ想いが詰め込まれています。
これは紛れもなく、椎名林檎本人の気持ちを表現した歌詞でしょう。
今でこそ椎名林檎は大衆の共感を呼ぶ歌詞を多く執筆しています。
しかしこの歌詞では、率直な彼女自身の気持ちが描かれているのです。
デビューから間もない、素直な彼女の気持ちが見て取れる貴重な楽曲といえます。
そしてそんな歌詞を包み込む、圧倒的にメロウなサウンド。
これぞ丸の内サディスティックの魅力といえるでしょう。
カート・コバーンとの見方もできる
椎名林檎に多大な影響を与えているミュージシャンはベンジーの他にもいます。
それが「RAT」の愛用者として先ほども登場したカート・コバーン。
「僧になる」というのはキリスト教徒から仏教徒へと転身したカートのこととも考えられます。
また、カートは躁鬱病を患っており、その「躁」と「僧」がかかっていますね。
まだ若く青い彼女が熟れるまで
曲はいよいよ大詰めに入っていきます。
ベンジーへの憧れを歌ってきた彼女が、どのような道を進んでいくのでしょうか。