「海の幽霊」

米津玄師初の映画主題歌

米津玄師【海の幽霊】深淵なる歌詞の意味を徹底解釈!残された椅子が象徴するものとは?追憶の想いは続く…の画像

米津玄師の初の映画主題歌となった「海の幽霊」。

この曲は米津玄師の愛する漫画作品、「海獣の子供」の映画版の主題歌として制作されました。

10代の頃にこの「海獣の子供」に出逢ったという米津玄師ですが、多感な10代の彼にこの作品は多くの影響を与えたことでしょう。

複雑で哲学的な内容の「海獣の子供」は、読み手の受け取り方に委ねるところが大きい物語でした。

人によって心に残る場面はそれぞれ違うでしょうし、果たして「本番」とは何だったのか、その答えも人によって異なるかもしれません。

”海”や”空”、そして選ばれた存在である「琉花」の存在意義をどう受け止めるか。

私たちの常識の象徴のようなジムと常人の常識を超える存在と現象を理解しているかのようなアングラードの存在をどう位置付けるか。

それだけでも幾通りもの解釈の仕方があるでしょう。

「海獣の子供」の世界へ誘う米津玄師の歌声

しかし、それらを凌駕するのはこの「海獣の子供」の壮大な世界、そして圧倒的な風景描写です。

まずはその世界観のスケールの大きさに圧倒され、ふわりと海の中で漂うような感覚に襲われます。

宇宙の雄大さや、悠久の時を経てすべてが今の自分へと繋がっていることを感じながら。

その世界の中で、宇宙とは何か、生と死とは何か、そういったことを否応なく考えさせられることになります。

そして米津玄師の「海の幽霊」は、その「海獣の子供」の世界へ私たちを誘う存在といえるでしょう。

「海の幽霊」の歌詞解釈

「海の幽霊」は、「海獣の子供」の世界観を強く反映した曲です。

曲調は海の壮大さや激しさ、そして時には静謐さが表現されていますが、歌詞も「海獣の子供」のヒロインである琉花の想いを歌いあげるものになっています。

そのため、「海獣の子供」の物語を理解しておくとこの曲に込められた想いにより近付けるかもしれません。

「海の幽霊」は前作のシングル「Flamingo」などに現れていた米津玄師独特の毒をはらんだようなものではなくなりました。

彼の持つ透明感はさらに輝きを増し、抑えられた感情の隙間から激情が垣間見えるような、そんなこの曲は21世紀の新たなアンセムとなることを予感させます。

では「海の幽霊」の歌詞の内容をじっくりと見ていきましょう。

椅子が象徴するもの

開け放たれた この部屋には誰もいない
潮風の匂い 染み付いた椅子がひとつ

あなたが迷わないように開けておくよ
軋む戸を叩いて
何から話せばいいのか
わからなくなるかな

出典: 海の幽霊/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師

ここで早速タイトルにある「椅子」が登場しました。

椅子は、「海獣の子供」の前半部分で印象的に登場します。

先祖の霊が返ってくる日に海岸に椅子を置いておくと霊は何かを椅子においていく。

あるいは、誰もいない部屋に残した椅子に次に見たときに何か変化があったらその部屋には幽霊がいる、と”海”が琉花に教えるのです。

ここの歌詞の部分はこのエピソードをなぞったと思われますが、時を経て穏やかに当時のことを振り返る琉花はいつでも心に椅子を置いていたのでしょう。

いつでも”海”や”空”が返ってこれるように。

”本番”のすべてを見届けた彼女は決して二人がもう戻ってこないことを知っていました。

それでも椅子を置いて、何らかの痕跡を残してくれるのを待つのです。

そこには郷愁や思慕の念のほかにも、偉大な営みの中に消えていった彼らのような存在への畏敬の念も込められているのではないでしょうか。

「椅子」に込められたもうひとつの意味

また、この「椅子」は琉花の喪失感の象徴とも受け取れます。

持ち主や使う人がいなくなって取り残された椅子は、その椅子を使っていた人の悲しい運命を思い起こさせます。

あの夏から琉花の心に常にある、海での出来事と不思議な存在の二人。琉花の心の中には波の音が絶えず聞こえていることでしょう。

あれから何年経っても色褪せることなく色鮮やかに琉花の中に存在する二人のために、琉花は椅子を置き続けているのです。

潮風の匂いが染みついて、朽ち果ててしまいそうなほど長い時が経っても。

もう二度とはに帰ってはこないことはわかっていながらも、彼らの不在を否定するかのように。

もしくは、琉花だけが目にした”本番”がまた起こり、人間には計り知れない不思議な力が二人をまた連れてくることを心のどこかで予感しているのかもしれません。

海の中の星空

星が降る夜に あなたにあえた
あの夜を忘れはしない
大切なことは 言葉にならない
夏の日に起きたすべて

思いがけず 光るのは
海の幽霊

出典: 海の幽霊/作詞:米津玄師 作曲:米津玄師