今夜だけは 眠れそうです
今すぐにでも夜汽車は出るさ

出典: THANK YOU MY GIRL /作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

別れを言えないまま過ぎていく時間。繰り返す毎日。

ですが、今日はこれまでと違ったようです。

主人公はいつも眠れぬ夜を過ごしていたのでしょう。

別れを切り出そうと思い悩んでいたからですね。

眠れぬ夜が終わるということは、悩みがなくなったということを意味します。

そう、二人はついに別れることになったのです。

主人公が別れを切り出したのでしょうか。

そうではありません。

歌詞にある夜行列車。それに去っていくのは彼女です。

列車は自ら乗り込むもの。つまり別れを切り出したのは彼女の方です。

夜行列車が意味するのは、夢を追いかけて上京していくこと。

彼女はずっと描いていた夢を叶えるために、主人公の下から旅立っていったのです。

別れの理由

ここから、主人公が別れを切り出そうとしていた理由がみえてきました。

彼は彼女に夢を追いかけて欲しかったのです。

一番の歌詞にあった春は、彼女の夢が叶うことも同時に表していたのです。

春が訪れない、それは夢が叶わないことを意味します。

自分の隣にいれば彼女は夢を叶えられない。

それが分かっていたからこそ、主人公は別れを告げようとしていたのです。

なかなかその思いを告げられなかった理由。

心の底では彼女と離れたくないという気持ちがあったからでしょう。

気付いた感情

込み上げる思い

今すぐ笑って
すぐ会いにいくよ
名前もつけるよ
涙にも全部

出典: THANK YOU MY GIRL /作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

 彼女と別れる主人公の心境が描かれています。

本当は別れたくないという思いを抱えながら、笑顔で彼女を見送る主人公。

別れに直面して初めて、彼女が掛け替えのない存在だったと気付いたのでしょう。

再会を約束する言葉には、離れがたい未練。

同時に、いつかまた自分と彼女の人生が交わるようにという願いを感じます。

喜びや悲しみ、涙が流れる理由はさまざまです。

涙に名をつけるというのは、涙の流れる理由を確かめるということ。

つまり、気持ちに整理を付けることを意味しています。

別れという現実を受け入れ、自分自身の気持ちに整理がついたらまた会いに行く。

そんな主人公の思いが感じられます。

本当の気持ち

サンキューマイガール
いつも出会った日のこと思うよ
いつだって素直になりたいんだ
本当は

出典: THANK YOU MY GIRL /作詞:岸田繁 作曲:岸田繁

最後に再び歌われる感謝の気持ち。

同じ感謝ではありますが、冒頭の気持ちとは少しニュアンスが異なるように感じます。

冒頭の気持ちは日常に当たり前にあるものに対する改まった感謝。

最後の気持ちは、別れという現実に直面したからこそ沸いてくる惜別の感謝です。

別れを選択した今。これまで当たり前にあったものを感じることはもうできません。

そんな現実を受け止め、気持ちに整理を付けるための感謝なのです。

別れという現実を前に、主人公は彼女の存在を噛みしめます。

出会った頃の記憶をたどるのは当時の日々を恋しく思う気持ちの表れでしょう。

自分の気持ちに正直でありたい。

そんな思いを抱えながら、打ち明けることができなかった。

過去を悔やむ気持ちが見て取れます。

恋人として彼女のことを心から好きにはなれなかった。

歌詞は二人に春が来なかったといっていましたが、それはきっと違うのでしょう。

彼女の存在が当たり前にありすぎて、大切さに気付けなかっただけなのです。

夢を追いかけようとしていた彼女の為に、別れることが最善である。

そう思っていても言い出せなかった主人公の様子にも表れています。

心の奥底では彼女を愛し、側にいたいと思っていたのです。

それが主人公の素直な気持ちなのでしょう。本当は彼女のことが大好きだったのです。

二人の物語

主人公の真意

関係が停滞したまま、主人公たちは長い月日を積み重ねてきました。

夢を抱く彼女のことを考えて、二人が別れた方が良いと考えた主人公。

ですが、その気持ちをなかなか言い出すことができず、時間ばかりが過ぎていきます。

最終的に彼女から別れを切り出されるまで、主人公は考えを口には出せませんでした。

そうして直面した彼女との別れ。

それによって主人公は初めて、思っているよりも大きな思いを彼女へ寄せていたことに気付くのです。

ですがもう、やり直すには時間が経ちすぎていました。彼女は旅立っていきます。

見送る主人公の胸中。

そこには彼女に夢を追い求めて欲しい気持ちと、好きで引き留めたい気持ちとが渦を巻いているのです。

こみ上げてくる涙はその寂しさと後悔の感情なのでしょう。

自分にとって掛け替えのない存在に別れて初めて気付いたのです。

列車の意味

夢を追いかけて旅立つ彼女は、夜行列車に乗っていました。

くるりの8枚目のアルバムには「夜汽車」という楽曲が収録されています。

この楽曲には汽車に乗って憧れの街へ旅立つ、心をすれ違わせた一組の恋人たちが描かれています。

登場人物たちの背景がどこか「THANK YOU MY GIRL」に似ているようです。

二人は一緒に汽車に乗り、旅に出ます。

すれ違っていた心も最後には通い合い、歌の最後、朝日の差し込む汽車の中で彼らはキスをするのです。

似た情景でありながらも、「THANK YOU MY GIRL」とは違う結末を迎えています。

このアルバムが発売されたのは2009年。「THANK YOU MY GIRL」よりも後の作品です。

もしかすると「THANK YOU MY GIRL」の二人のもしもの形なのかもしれません。

主人公が彼女と共に夢を追いかける。そんな決断をした世界なのではないでしょうか。

くるり楽曲には列車がよく登場します。

列車が乗せて走るのは、一人一人それぞれ異なる物語です。

列車やそれの行き交う駅は様々な人の人生や物語が交わる場所の象徴として描かれるのでしょう。

駅は人生の交差点といえます。

主人公たちは留まっていた駅から出発し、またそれぞれの人生を走っていくのです。

いつかまた同じ駅で二人の人生が交わる。そんな時が来ること願いたいですね。

くるりの名曲たち