変幻自在な作曲力を肌で感じさせてくれる両A面

序盤の気だるさからからストリングによる展開が期待感を抱かせる

両A面としてリリースされた本作品ですが、1曲目になる「いろはにほへと」は、2013年に松下奈緒さんが主演したフジテレビ系ドラマ「鴨、京都へ行く。〜老舗旅館の女将日記〜」の主題歌として椎名林檎さんが作詞と作曲を手がけた楽曲です。

「いろはにほへと」の魅力は、椎名林檎さんの変幻自在な作曲力を肌で感じさせてくれるところでしょう。

トイピアノやチェンバロ風のアルペジオが印象的なイントロから、昭和歌謡的な懐かしさと気だるさを感じさせるAメロに突入する序盤の展開、そして中盤からのジョージ・マーティン(5人目のビートルズと呼ばれているプロデューサー/エンジニア)を彷彿とさせるストリングスをバックに始まる展開部分は、まるで「マジカル・ミステリー・ツアー」のようです。

椎名林檎「いろはにほへと/孤独のあかつき」はデビュー15周年記念日発売シングル♪【歌詞情報あり】の画像

転調からのダイナミックな動き

音響的な広がりだけでなく、歌詞やコード進行も大きく動いていく

色彩感でいうと暖色系のオレンジから寒色系のブルーに世界が移り変わっていくような、そして地上の定点から鳥瞰していくような浮遊感が音として伝わってきます。これは、ストリングスの定位による音響的な左右の広がり感や奥行き感の変化だけでなく、椎名林檎さんならではの独特なコード進行と転調も大きな理由でしょう。

C♯m7、E7、A、G♯7、C♯m7、E7、A、G♯7というちょっと気だるいような展開から、G♯、G♯ on F♯、Fm7、EM7、F♯6と変化していき、次のフレーズをBから始め、Dからのフレーズに移り、最後はA♭で収束させて、またメロに戻す。よくもまあこれだけ動かすのかといった感じです。

でもこれが椎名林檎さんなんですね。よくある70年代歌謡風(もしくは洋楽ポップス風)ではなく、曲の中に椎名林檎の主張が埋め込まれています。歌詞も同じだけ動いて、“生きている命が無色透明”になって夢の中に溶け込んで消えていきます。

狐の嫁入りの金魚色の龍

透けて見えそうな淡い色彩の世界

公式動画では、竹林の中を椎名林檎さんが「いろはにほへと」を口ずさみながら狐の嫁入りの提灯行列の中を歩いていきます。色彩は真夏のドピーカンのはずが、淡く透けて見えそうな、かといってぼやけていないシャープさも感じさせる映像に仕上がっています。

曲が動いて展開した後の場面では、金魚色の龍の尾に差し掛かる部分で曲の展開と映像がピタッと重なり一瞬時が止まったかのように感じたのは私だけでしょうか。

この編集はかっこいいですね。

龍が雲を呼び、お狐様に変身して、そして狐の嫁入りのもうひとつの意味でもあるお天気雨を招いて、そして竹林を背に小さくなっていく。椎名林檎さんは、そのままどこにいったのでしょうか。

スイッチが入ったもう一つの椎名林檎

NHKのドキュメントが繋いだ2つの才能

2曲目の「孤独のあかつき」は、NHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人達」のテーマ曲として書き下ろされた楽曲で、同番組は現在でも放送中で「孤独のあかつき」も引き続き使われています。

「SWITCHインタビュー 達人達」は、普段出会うことのない異なる分野の達人が、お互いの仕事の現場を訪ねることで起きる様々な「スイッチ(化学反応)」をドキュメントとして捉えている番組です。

そして番組が始まるのに際し、番組サイドは椎名林檎さんにテーマ曲の書き下ろしをオファーをしたそうで、椎名林檎さんは異なる才能が出会うという番組の趣旨から、NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)「カーネーション」の脚本を行なった渡辺あやさんに作詞を依頼。

お二人は「カーネーション」(主題歌はもちろん椎名林檎さん)という同じ番組携わっていたものの、直接関係することはなかったそうですが、渡辺あやさんが作詞を快諾し「孤独のあかつき」が生まれました。

椎名林檎「いろはにほへと/孤独のあかつき」はデビュー15周年記念日発売シングル♪【歌詞情報あり】の画像

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