ヒット曲として
どんなお酒か
「おもいで酒」そのタイトルは様々なことを連想させます。
お酒は飲む人にとっていろんな役割を果たしているもの。
楽しい気持ちをさらに盛り上げるためのお酒や、幸せを祝うためのお酒。
反対に、悲しみや辛いことを忘れるために飲むお酒もあります。
この歌の主題である、「おもいで酒」の「おもいで」とはどんな過去のできごとなのでしょうか。
「思い出」でも「想い出」でもなく平仮名で表記された「おもいで」のその内容について読み解いていきましょう。
温もりを肩に
無理して飲んじゃ いけないと
肩をやさしく 抱きよせた
あの人 どうしているかしら
噂をきけば あいたくて
おもいで酒に 酔うばかり
出典: おもいで酒/作詞:高田直和 作曲:梅谷忠洋
一人グラスを傾けながら、ふと懐かしい別れた人を思い出す主人公。
懐かしさと切なさが入り混じるその心中はどのようなものでしょうか。
ふと胸によぎるのは
何かふとした瞬間に過去の想い出や、今は会わない人のことを思い出すことがあります。
これを見れば、若しくはこれを聴けば思い出すというパターンもあるでしょう。
主人公は、お酒を飲みながら過去に別れたある男性をしみじみと思い出したようです。
その誘因となったのは、彼がかつてよく飲んでいたお酒を目にした瞬間かもしれません。
しばらく行っていなかった二人の思い出のお店に足を踏み入れたときなのかも。
二人で通ったお店に行けば、お相手の噂を耳にすることもあるでしょう。
たまたま共通の知り合いの話題が出れば、そこに懐かしいあの人の近況が混じることもあります。
今は連絡をとることもなく、どんな暮らしをしているのか知らないかつての恋人。
想像の中の彼の姿と、噂の渦中の彼を重ね合わせ、なんともいえぬ不思議な気持ちがこみ上げてきているようです。
おもいでは優しく
女性が恋人の前で無理なお酒を飲むときというのはどんな場面でしょうか。
羽目を外したいときや、大胆になりたいときなどが思い浮かびます。
甘えたいときや、何か相手に対して欲求があるという場合にはお酒の力を借りたりするもの。
優しいけれど、何かしら自分の思い通りにことを進めてくれない恋人。
肩を抱いてなだめすかしながらも、本当に欲しいものはくれない恋人。
そんな相手に対する抗議として飲むお酒があります。
お互いの真意や置かれている状況は理解していて、それ以上、求め合うことは無理とわかっている。
わかっているけれど、今はわざと相手を困らせたいという気分。
そんな女性特有の無理でかわいらしく男性を困らせている姿が目に浮かびます。
わかった、わかったと、優しく抱き寄せてくれた男性。
暖かい指先や、吐息を思い出しながら、主人公のグラスには懐かしい彼の面影が映っています。
覚えています
ボトルに別れた 日を書いて
そっと涙の 小指かむ
あの人 どうしているかしら
出船の汽笛 ききながら
おもいで酒に 酔うばかり
出典: おもいで酒/作詞:高田直和 作曲:梅谷忠洋
飲み進めるうちに、別れた男性との思い出があれこれ蘇ってきます。
無理を止めてくれる人もいない今、主人公はお酒の杯と思い出とを重ねていきます。
指折り数えて
恋人と決定的な何かがあった日は、忘れていないものです。
普段は気にすることもなく、思い出さなければ素通りしてしまうこともあります。
過去の恋人を思い出すとき、寒い日だったなとか、Tシャツ姿だったな、といった場面と共に正確な日時を思い出すことも。
主人公はボトルに恋人と別れたその日付を書き入れます。
もうあれからこんなに時間が経ってしまったという感慨が込みあげてくるでしょう。
別れてからの月日を自分がどんな風に過ごしたのかを、振り返ってみたり。
同時に、同じだけの時間が彼にも流れていることを思うでしょう。
私がこうして彼を思い出すように、彼は私を思い出すことはあるのだろうか。
そう考えると複雑な気持ちになるかもしれません。
主人公は、込み上げる涙を抑えるために小指をそっと噛んでいます。