知らず知らずの内に
擦り減らした心の扉に鍵をかけたの
そこにはただ美しさの無い
私だけが残されていた
出典: ハルジオン/作詞:Ayase 作曲:Ayase
上記の歌詞は日常に馴染めず彼氏と別れ、別れたあともずっと引きずっている「私」の状態を表しています。
描きたくもないイラストを描く日々は、「私」の中にある未来への期待や希望を徐々に削り取っていきました。
すれ違いの末に「あなた」と別れたあとは、部屋に閉じこもりただ時間を浪費するだけの毎日です。
自堕落な生活は、物理的にも精神的にも殻に閉じこもっているといえるでしょう。
いつまでも終わった恋を憂いてふっきることができない様子を、二行目の歌詞で表現していました。
「あなた」や友人は前に進んでいるのに、「私」だけが何も変わらずに残されている。
今を生きている友人の個展に行くことで、「私」はそのことをより強く意識します。
美しかったあの頃
青過ぎる空に目の奥が染みた
あの日の景色に取りに帰るの
あなたが好きだと言ってくれた私を
出典: ハルジオン/作詞:Ayase 作曲:Ayase
「青」という色には、「未熟な」や「若い」という意味合いもあります。
つまり一行目の歌詞は、「青空を見て昔の自分を思い出している」という意味です。
美大を卒業する前の「私」は、こんな無気力な日々を過ごしていませんでした。
描きたい絵があり、それを形にするために懸命に努力していたのです。
そしてそんな風に絵を描いている「私」を「あなた」は確かに愛してくれていました。
上記の歌詞は、あの頃の活力に満ちていた自分を取り戻そうと「私」が決意したことを表しています。
過去に区切りを
本当はずっと
誰にも見せずに
この手で隠した想いが
今も私の中で生きている
出典: ハルジオン/作詞:Ayase 作曲:Ayase
彼女の「想い」とはなんなのでしょうか。
「隠した」という言葉からわかる通り、それは彼女自身が見ないようにしていたものです。
つまりその「想い」こそ「私」の夢ではないでしょうか。
なかったことにしても、決して消えてなくならなかった夢。
その夢の内容について、下記のフレーズでもう少し掘り下げられています。
目を閉じてみれば
今も鮮やかに蘇る景色と
戻れない日々の欠片が
映し出したのは
蕾のまま閉じ込めた未来
もう一度描き出す
出典: ハルジオン/作詞:Ayase 作曲:Ayase
二行目の歌詞は「あなた」と一緒に見た景色、三行目の歌詞は「あなた」と過ごした時間を表しています。
これらは終わった恋の記憶にほかなりません。
それでも、その終わった恋の記憶がある「想い」を形作ります。
ここで五行目の歌詞に注目してください。
美しく咲いている状態の花は、「個展を開く」という友人の夢を象徴していました。
それに対して「蕾」とは、「現実はそんなに甘くない」と諦めた「私」の夢を表しているのではないでしょうか。
タイトルにもなっている「ハルジオン」とは四~六月頃に咲く花、逆にいうとその時期にしか咲けません。
これはちょうど彼女が新社会人として奮闘していた時期と合致しています。
美大を三月に卒業した彼女の「ハルジオン」は、「蕾」のまま咲くことはできませんでした。
ですが新社会人としての日常に疲弊したあとですら、その「蕾」は枯れなかったのです。
そうしてまた再びふつふつと「絵を描きたい」という想いが蘇ってきました。
五行目の「未来」という単語は、「好きな絵を描く未来」という意味で使われています。
そして「絵を描いている私」とは、「あなた」が愛してくれていた「私」でもありました。
前を向く
あの日のあなたの言葉と
美しい時間と
二人で過ごしたあの景色が
忘れてた想いと
失くしたはずの未来を繋いでいく
出典: ハルジオン/作詞:Ayase 作曲:Ayase
一番の淡々とした歌声とは裏腹に、たたみかけるような歌声になっていきます。
「私」は「あなた」との思い出をカンバスに描き始めました。
幸せな二人を描くことで、あるはずだった「あなた」との未来を作り出したのです。
確かに、現実ではもう終わった恋でしかありません。
ですがその終わった恋が、夢へと真剣に向き合わせてくれました。
たとえ過去の記憶だろうと、カンバスに幸せな結末を描くことはできます。
そうして絵にすることで、今までずっと引きずってきた未練を昇華することができました。
彼女が過去の恋に「没入」しているのではなく、絵を描くこと自体に「没入」していることがわかります。
戻れない日々の続きを歩いていくんだ
これからも、あなたがいなくても
あの日の二人に手を振れば
確かに動き出した
未来へ
出典: ハルジオン/作詞:Ayase 作曲:Ayase
「あなた」への気持ちを絵に昇華することによって、「私」は前を向くことができました。
彼がいなくても、二人が幸せだった頃を絵として描くことはできる。
タイトルにもなっている「ハルジオン」の花言葉は「追憶の愛」です。
花言葉が表しているのは、もちろん終わってしまった彼との恋のことでしょう。
さらに、歌詞の中で花は夢を象徴していました。
ならばタイトルの「ハルジオン」とは、終わった恋が夢という花を咲かせたことを意味しています。
そうして自分の気持ちにけじめをつけた彼女は、自分の未来について考え始めました。
「あなた」との未来でもなければ、「あなた」が好きだった「私」の未来でもなく、ただ自分のための未来を。
ここで三行目の歌詞に注目してください。
一番のときは「手を伸ばして」いた「私」が、今は「手を振って」あの頃の自分達に別れを告げています。
同じように「手を」に続く慣用句なのに、真逆の意味になっているのが粋な演出ですね。