「はっぴいえんど」解散後、音楽プロデューサー業を開始し、少し遅れてソロ活動に入った大瀧詠一

作詞・作曲・編曲・レコーディングエンジニア・プロデューサーなど、マルチな才能を持つ人です。

今の音楽業界、特に録音技術の部分で多大な功績を遺しました。65歳での逝去が惜しまれます。

おおざっぱではありますが「大滝」は歌手活動用、「大瀧」作曲などの仕事で使われていました。

「風立ちぬ」同年の4月に発売されたアルバム『A LONG VACATION』は、今も夏の定番!

その中の「君は天然色」「カナリア諸島にて」は、ごく最近もCM曲としてTVで流れていましたね。

ちなみにこの『A LONG VACATION』は、日本で初めて販売された「CD」なんですよ。

それまではレコードだったのですから、本当に時代の先端を走っていたのですね。

アーティストへの楽曲提供もたくさん。小泉今日子薬師丸ひろ子稲垣潤一森進一などなど…。

レコーディング秘話「私には向かないかも…」

「高原で、失った恋人を想う女性」というコンセプト=しっとり静かな雰囲気。

前出のプロデューサー・若松宗雄が想像していたのはそういう曲だったそうです。

しかし大瀧詠一作曲・編曲したのは「ものすごいゴージャスな大作」(若松談)でした。

こんなエピソードがあります。

「(聖子が)『いい曲だが、自分には向いていない』と言った為、なかなかボーカルダビングが行われませんでした。取り敢えずCMだけでも、という事でCMバージョンの録音がされましたが、たぶん1回か2回しか歌わなかったと思いますが、嬉しそうにスタジオを出てきて『歌えました!』と言っていた笑顔が印象的でした」と回顧している。

出典: https://ja.wikipedia.org/wiki/風立ちぬ_(松田聖子の曲)

大瀧詠一「ナイアガラサウンド」と呼ばれる重厚な音作り。

「風立ちぬ」もその例にもれることはありませんでした。

また、名作小説をテーマにした歌詞は、今までの明るくポップなものとは一線を画しています。

それまで良い意味で「アイドルらしい」曲を歌ってきた松田聖子にとっては、とまどいが大きかったのでしょう。

しかし見事にこの曲を歌いこなした彼女は、ここから劇的な成長を遂げることになります。

透明感のある声で、心の影を絶妙に歌い上げる!

ではここで実際に「風立ちぬ」を当時の動画で聴いてみましょう。

40代以上にとっては懐かしの「聖子ちゃんカット」!!

この曲をリリースした年の暮れ、彼女はばっさり髪を切り、ショートヘアにしたのでした。

美しく儚く繊細な歌詞の世界

お待たせしました!

ここからは、松本隆ワールドで展開する美しい歌詞を探っていきましょう。

秋の高原で綴る言葉は「SAYONARA」

風立ちぬ 今は秋
今日から私は心の旅人

出典: 風立ちぬ/作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一

最初にサビから入ります。音楽用語で「サビ頭」と呼ばれる形式です。

風立ちぬ、秋、心の旅人…これらの言葉がサビのメロディーにのって、聴く人の心を捉えます。

どうして心の旅人になったのでしょう?

小説を読んだ人は「彼女はこの世を去り、彼の心の中で永久に旅する人になった?」と想像できるかも。

そうするとこれはあの世からのメッセージということになり、ちょっと怖い…(苦笑)

それとも「彼を失った彼女は、彼の面影を求めて自分の心の中を旅する人になった」のでしょうか?

涙顔見せたくなくて
すみれ・ひまわり・フリージア
高原のテラスで手紙
風のインクでしたためています
SAYONARA SAYONARA SAYONARA

出典: 風立ちぬ/作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一

涙に濡れた顔ではなく、可憐に咲く花のような笑顔を見せたいという思いの表れでしょうか。

風のインクというのは、なんとも美しく儚い表現です。

風のように淡い、ブルーのインク。

もしかするとこの手紙は、現実の紙とペンではないのかもしれません。

心の中で、風のインクでしたためる手紙。そこに綴られていく言葉は「SAYONARA」…。

しかしなぜ「さよなら」ではなく「SAYONARA」なのでしょうか。

人によって受け止め方は違うと思いますが…。

ひらがなで書く「さよなら」には、何か絶対的なものを感じてしまいます。

別れが絶対的なものであったとしても、それを言葉にするのはあまりにもつらいことですよね。

でもどうしても「さよなら」を告げなくてはいけないなら、せめて柔らかく…ということではないでしょうか。

幸せだった日々が織り込まれた「赤いバンダナ」

「風立ちぬ/松田聖子」は松本隆×大瀧詠一から生まれた名曲♪堀辰雄の小説をテーマにした歌詞の意味を解説の画像

振り向けば色づく草原
一人で生きてゆけそうね
首に巻く赤いバンダナ
もう泣くなよと あなたがくれた
SAYONARA SAYONARA SAYONARA

出典: 風立ちぬ/作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一

時は確実に流れ去ります。

青々と茂った夏草も、秋の訪れとともにその色を変えていくもの。

赤いバンダナは、過ぎ去った幸せな日々を象徴する思い出の品なのでしょうね。

別れにあたって彼がくれたバンダナをみつめながら繰り返す「SAYONARA」…。

お互いを嫌いになって別れたわけではないというのが、とても強く伝わってきます。

泣きじゃくる彼女に「もう泣くなよ」と慰めたところを鑑みると、この世を去ってしまったのは彼…?

風立ちぬ 今は秋
帰りたい 帰れない あなたの胸に
風立ちぬ 今は秋
今日から私は心の旅人

出典: 風立ちぬ/作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一