ミスチルが歌う震災と希望
2011年4月に発売された曲
今回ご紹介するのは、言わずと知れた日本を代表するロックバンド、Mr.Childrenの「かぞえうた」です。
リリースされたのが今から7年ほど前の2011年4月4日。その約3週間前に発生した東日本大震災大震災を受け、ヴォーカルの桜井和寿さんが書き下ろした楽曲です。
当時の桜井さんの思い
桜井さんは、当時「何もかも失って悲しみや苦しみに取り囲まれている状態でも、やはり希望を探して数えて行けたら」という思いでこの曲を制作したそうです。
筆者は当時宮城県に住んでおり、東日本大震災では被災者となりました。当然大変な時期もありましたが、多くの著名人の方々のメッセージにたくさんの勇気をもらいました。
当時ドイツでプレーしていたサッカーの内田篤人選手も、ユニフォームに手書きのメッセージを書いて下さっていましたね。
「日本の皆様へ。少しでも多くの命が救われますように。共に生きよう!」朝刊でこの言葉を目にした私は、思わず涙が出て来ました。
他にも、テレビのCMではSMAPの皆さんやウルフルズのトータス松本さんが「ここから這い上がろう!」と被災地や日本全土に向けてメッセージを下さっていたのを覚えています。
今回ご紹介するMr.Childrenの「かぞえうた」も、多くの被災者の心に届きました。今回は、歌詞に込められた意味を丁寧に見て行きます。
「かぞえうた」のライブでは
シンプルなステージに映える楽曲
照明を落としたステージに、5小節ほどピアノのイントロが響きます。
そして桜井さんのヴォーカルがそっと始まり、歌詞に記された言葉を1つ1つ丁寧にメロディーに乗せて行きます。
派手な演出などがない分、曲の良さがしんみりと伝わるステージですね。歌詞を見て行くと、小学生でも分かるとてもシンプル、かつ力強い言葉が並んでいるんですよ。
「かぞえうた」の歌詞
Aメロから
かぞえうた
さぁ なにをかぞえよう
なにもない くらいやみから
ひとつふたつ
もうひとつと かぞえて
こころがさがしあてたのは
あなたのうた
たとえるなら
ねぇ なんとたとえよう
こえもないかなしみなら
ひとつふたつ
もうひとつとわすれて
また ふりだしからはじめる
きぼうのうた
出典: かぞえうた/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
初めて歌詞をご覧になった方も、多いのではないでしょうか。見ればお気付きですよね。「かぞえうた」のAメロは全てひらがなで書かれているのです。
全てひらがなにした理由を、私はこう考えます。「自分の腕を持ち上げる力さえ残されていない、眠る事さえできない被災者の方々に、最低限の負担で歌詞を感じてもらいたいから」
ひらがなは丸くてどこか優しいフォルムで、その文字をありのままに音として表現できます。前を向くのさえ辛い被災者の肩を、そっと包んでくれるような印象を受けますね。
通常、Aメロは2パラグラフで終わる曲が多いのですが、「かぞえうた」はひらがなの歌詞がもう1パラグラフ続きます。そちらも見てみましょう。
わらえるかい
きっと わらえるよ
べつにむりなんかしなくても
ひとりふたり
もうひとりと つられて
いつか いっしょにうたいたいな
えがおのうた
出典: かぞえうた/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
このパートを聴いて、チャップリンの「Smile(スマイル)」を思い出した方も多いのではないでしょうか。
「どんなに悲しく辛くても、笑ってごらん。そしたらまだ人生捨てたもんじゃないって分かるから」というメッセージを、とてもシンプルなメロディーで歌う楽曲ですね。
桜井さんが書いた詞も、「無理はすることはないけれど、いつか笑ってくれたら嬉しいな」と少し離れた場所から温かく見守ってくれているイメージが伝わりますね。
実は、被災者の中には「サバイバーズギルト」という「(大切な人や身近な人が亡くなったのに)自分が生き残ってしまった罪悪感」に苦しむ方が未だに多くいらっしゃいます。
そんな方々は、毎日の生活で笑う事にさえ後ろめたさを感じてしまうのです。自分だけが毎日温かい食事をして、快適な布団で寝て、笑う。こんな事が許されるのかと。
桜井さんがひらがなで書いたこの部分の歌詞は、「ぜひとも笑って!」というより、「笑ってもいいんだよ」と被災者の気持ちにより寄り添った響きがしますね。
続いて、サビの歌詞も見てみましょう。
サビの歌詞
僕らは思っていた以上に
脆くて 小さくて 弱い
でも風に揺れる稲穂のように
柔らかく たくましく 強い
そう信じて
出典: かぞえうた/作詞:桜井和寿 作曲:桜井和寿
サビは、この楽曲で唯一歌詞に漢字が混ざります。この部分は被災者に向けてだけでなく、日本全国の人に向けて伝えたいメッセージが凝縮されているからではないでしょうか。
桜井さんは、「強さ」の例として、一見弱そうな「稲穂」を持って来ていますね。
他に強さと弱さを考える時は、よく「柳」も使われます。柳の木はひょろひょろとしていて一見か弱そうですが、しなやかにしなるその枝で風雪に耐えます。
人生では筆舌に尽くし難い試練に遭う時があります。その時に必要なのは、その試練を跳ね返す強さではなく、まずは「しなやかに受け止める強さ」なのです。
桜井さんはこの事を、サビでしっかりと訴えたかったのではないでしょうか。