少し冷めた女の子の恋の歌
卒業の日の風景
制服の胸のボタンを 下級生たちにねだられ
頭かきながら逃げるのね ほんとは嬉しいくせして
人気のない午後の教室で 机にイニシャル彫るあなた
やめて想い出を刻むのは 心だけにしてとつぶやいた
出典: 卒業/作詞:松本隆 作曲:筒美京平
制服のボタン、特に上から二番目のボタンにはある意味があります。
それは「大切な人に贈るためのボタン」だったのです。
2018年現在、この慣習が残っているかは定かではありません。
しかし当時の学生達にとっては大事な記念品でした。
この曲の歌詞はある少女の胸の内を綴ったもののようですね。
意中の人は後輩からも人気のある男性であると描写されています。
そんな彼をこの少女は一歩引いたところから眺めています。
少しクールな性格の少女であると考えられます。
離れ離れになってしまう二人
離れても電話するよと 小指を差し出して言うけど
守れそうにない約束は しない方がいいごめんね
セーラーの薄いスカーフで 止まった時間を結びたい
だけど東京で変わってく あなたの未来は縛れない
出典: 卒業/作詞:松本隆 作曲:筒美京平
どうやらこの二人は卒業後に別々の場所で暮らすことになるようです。
彼の言葉を冷たくあしらう少女。
しかし彼女の心の中にある思いはとても切ないものでした。
上京する彼はどうせ変わってしまうと彼女は考えています。
確かに新しい環境によって価値観が変わる人は少なくありません。
もちろん環境の変化にも惑わされずに愛を育むカップルもたくさんいます。
しかし彼女はそのような楽観視は出来ないようです。
セーラー服のスカーフでこの時を結びたいという彼女の願い。
これはきっと叶わないことなのでしょう。
なぜなら卒業してしまったらセーラー服を着ることはもうないからです。
この部分の絶妙な心情の乗せ方は松本隆さんの巧みな技術の一つと言えますね。
ああ卒業式で泣かないと 冷たい人と言われそう
でももっと哀しい瞬間に 涙はとっておきたいの
出典: 卒業/作詞:松本隆 作曲:筒美京平
相変わらず少し冷めたように思える少女の思い。
しかしこのサビには彼女の辛い気持ちが表れています。
「もっと哀しい瞬間」とはいつのことなのでしょうか。
彼女は前の部分でも彼との別れを予感していました。
つまりその瞬間とは二人の関係が終わってしまう時のことだと考えられます。
彼との関係が続いているこの時は、少女にとってまだ幸せな時間なのです。
それは先ほどのスカーフの部分でも読み取れる思いですね。
遠くに行ってしまう彼と、残される彼女。
その二人のすれ違う思いがこの曲のテーマになっているようです。
遠距離恋愛を経験したことがある方なら分かるかもしれません。
往々にして切なくて辛いのは残される側なのです。
クールな少女の内なる想い
彼女の本音
席順が変わり あなたの隣の娘にさえ妬いたわ
いたずらに髪をひっぱられ 怒ってる裏ではしゃいだ
出典: 卒業/作詞:松本隆 作曲:筒美京平
このパートではクールな少女の意外な気持ちが書かれています。
学生時代の席替えは一大イベントでしたね。
意中の人と席が近くなったり、遠くなってしまったり。
今まで冷めた態度をとっていた少女も、実は席替えに一喜一憂していたのです。
いたずらをされて喜んでしまうこともあったみたいですね。
あまのじゃくで素直になれない彼女。
だからこそ卒業の日でも強がってしまっているのでしょう。
実際は心の内で別れを予感している、か弱い少女だったのです。
卒業の日の終わりに
駅までの道のりを はじめて黙って歩いたね
反対のホームに立つ二人 時の電車がいま引き裂いた
出典: 卒業/作詞:松本隆 作曲:筒美京平
別れを予感している少女。
彼の方もそれを感じとったのかもしれません。
二人は黙ったまま帰路につきます。
別々のホームに立つ二人の間にやってくる電車。
この部分は1番のスカーフの比喩と同じように書かれています。
二人が一緒にいることができるこの時間を止めたいと願う彼女。
しかし無情にも叶わぬ夢となってしまいます。
それを電車を使って切なく表現していますね。
二人の最後
ああ卒業しても友だちね それは嘘では無いけれど
でも過ぎる季節に流されて 逢えないことも知っている
出典: 卒業/作詞:松本隆 作曲:筒美京平