桑田佳祐による作詞作曲
大人の妖艶な恋愛模様
名匠・深作欣二監督の映画「蒲田行進曲」の主題歌に選ばれた中村雅俊「恋人も濡れる街角」。
男女の緊張感がある恋愛を描いた名画に相応しいこの曲を書いたのが桑田佳祐です。
オリコン・シングル・チャートでは5位止まりですが、TBS「ザ・ベストテン」では2位。
時代を彩る名曲になりました。
桑田佳祐による歌詞は大人の恋愛を描いていて妖艶で際どいもの。
時代は高度経済成長時代の余波に乗りバブル経済へと向かい始めた頃です。
この曲にも時代的背景が見事に写り込んでいます。
舞台は横浜市にある馬車道という古い歓楽街。
当時、横浜市で一番盛況だった伊勢佐木町からほど近くにありながら、もう少し大人が好む街でした。
明治時代には文明開化の玄関口になった商店街。
ロマンチックな街の面影は今でも健在です。
桑田佳祐はこの街に何を託したのでしょうか?
宮城県女川出身の中村雅俊ですが横浜を舞台にした歌を違和感なく歌いきる姿はさすが文学座の俳優です。
雰囲気抜群の歌とロケーション。
この歌が愛された背景などを歌詞の考察を中心に見ていきましょう。
この頃からあった「*ただしイケメンに限る」
男女の恋の駆け引き
不思議な恋は 女の姿をして
今夜あたり 訪れるさ
間柄は遠いけど
お前とは OK 今すぐ
出典: 恋人も濡れる街角/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
中村雅俊の掠れた歌声が大人の恋愛を歌うには素晴らしくマッチしています。
いい男は女性の方が放っておかないのでしょうか?
女性の方からのアプローチさえ予感させます。
ひと目で恋に落ちたことがある方には分かりやすい歌詞です。
ただ、この時代の恋愛は草食化と呼ばれる今よりもお淑やかであった記憶があります。
きわめて稀な恵まれた恋愛のパターンでしょう。
誰しもが幸福に恋愛できたとはいえずに今でいうところの「*ただしイケメンに限る」というお断りつき。
「イケメン」なんて言葉はまだありませんでしたが実情は変わりありません。
今の視線で「へえ、昔の恋愛は何でもありだったのだな」などと誤解しないでください。
恋愛にも「上級国民」みたいな見えない身分制度があったのは当時も今も同じようなものです。
歌の世界の「YOKOHAMA」
みなとみらいがなかった頃
YOKOHAMA じゃ今 乱れた恋が揺れる
俺とお前の まんなかで
触るだけで感じちゃう
お別れの Good-night 言えずに
出典: 恋人も濡れる街角/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐
横浜市にまだみなとみらい地区がなかった頃の歌です。
当時の横浜の夜景もきれいでしたが高層ビル群が港の埋立地に並んでいる姿はまだまだありません。
乱れていたのはヤンキーだけだったはず
当時の横浜のシンボルはマリンタワーという灯台で「港町・横浜」のイメージがまだ根強い時代でした。
実際に乱れた恋愛が横行していたのは横浜でもかなりグレた青少年たちの間だけで大人はおとなしいもの。
そこにドラマを書こうとした桑田佳祐の恋愛劇に関する嗅覚は超一流です。
また、桑田佳祐もまだまだやんちゃしていたのだろうなとも思います。
帰りたくない夜という雰囲気は若い頃に味わう気分や感覚です。
家庭を持つとどうしてもすぐ帰宅しないといけません。
明日も仕事がありますから。
そんな凝り固まった考えや保守的な生活態度では大人の恋愛は呼び込まれません。
いつまでもやんちゃでありたいものです。
中村雅俊にしか出せない感情表現
切ないメロディに胸を痛める
ああ つれないそぶりさえ
よく見りゃ愛しく 思えてく
ただ一言でいいから
感じたままを口にしてよ
出典: 恋人も濡れる街角/作詞:桑田佳祐 作曲:桑田佳祐