シティポップ界の中でも異質な”すべすべ感”
つかみどころのない浮遊感が癖になる楽曲
「Gun」はLUCKY TAPESの1st Album「THE SHOWS」に収録された楽曲。
昨今のシティポップブームやインディポップブームにあって、この曲はある種、異質といっていいでしょう。
それを作り出しているのがボーカル・高橋海の”エロい”ウィスパーボイス。
つかみどころのない独特な浮遊感は、一瞬で虜になります。
キャッチーさをもたせつつも、何度だって聴けるほどの嫌みのなさ。
この洗練された楽曲の”すべすべ感”がバンドの個性として際立っているのです。
横ノリのビートも流行ではありますが、LUCKY TAPESには特に無駄がありません。
こと「Gun」では、それが光っています。
必要最低限の出音だけで横ノリのビートを演出しているのです。
他のシティポップバンドが髭を生やしたノリだとすると、LUCKY TAPESはすっきり剃っている感じ。
そういった意味での”すべすべ感”です。さっぱりしています。「チルしてぇ!」なんて言ってみたくなります。
mabanuaを目指したって、どういうこと?
Ovallのドラマーであり、音楽プロデューサー
高橋はインタビューで「Gun」について「mabanuaグルーヴを目指した」と明言しています。
では、ここで引き合いに出されているmabanuaとはいったいどういう方なのでしょうか。
mabanuaは日本の音楽家です。
自身が所属するメインバンドの「Ovall」ではドラマー兼シンガーとして活躍。
その側面、さまざまなアーティストのプロデューサーとして活躍しています。
「藤原さくら」や「ゆず」「Chara」「米津玄師」などあらゆるアーティストのプロデュース。
「Gotch」や「安藤裕子」「矢野顕子」「くるり」などのサポートドラムとしても活動しています。
また自身で制作したソロアルバムでは、国内外問わずあらゆる方とコラボして世界中から高い評価を得ました。
曲をイチから作る。他人が作った曲を演奏できる。
アーティスト性もミュージシャン性も兼ね備えた、超一流の音楽家なのです。
mabanuaにしか出せないグルーヴ
幅広いジャンルの音楽を手掛けているmabanua。
フレキシブルなプロデュース能力やウィスパーな歌声などさまざまな魅力があります。
そのなかで「mabanuaらしさ」を作っているのは「グルーヴ感」でしょう。
グルーヴにははっきりとした定義がありません。なんとなく使っている方も多くいらっしゃることでしょう。
言葉で説明するならば「心地の良い揺らぎ」とでもいいましょうか。
楽器のリズムがクリックから少し外れる。その予定不調和は「気持ちが悪い」と思わせるはずです。
しかしコンマ何分の一かの微細なリズムの揺れが快感をもたらす場合があります。
その揺らぎを「グルーヴ」というのです。
だからシステマティックな機械による演奏ではグルーヴは出ないと言われています。
mabanuaのドラムには、ディアンジェロやダニー・ハサウェイのようなファンク・ハウス系の香りがします。
ドラムという楽器はギターやベースに比べて、機械をほとんど通しません。
人間の力が存分に発揮されるという意味では、グルーヴを出しやすい楽器だといえます。
クセや叩き方、果ては音楽の聴き方に至るまでの1つひとつがドラマーそれぞれのグルーヴをつくっているのです。
音楽シーンから愛されているmabanuaのグルーヴ感。
そのドラムを叩けるのはmabanuaしかいないのです。いわば独特なモノなので誰にも真似できません。
LUCKY TAPESの音楽を知るうえでmabanuaはキーパーソンなので、ぜひ一緒にチェックしてみてください。
「Gun」の歌詞を和訳してご紹介
ちょっと大人なラブストーリー
Do you remember
When you're feeling all alone
We're talkin' over for a while
Slow down your heartbeat
So many things to say
Let me tell you everything
出典: Gun/作詞:髙橋海 作曲:髙橋海
”あなたは覚えてるかな?
ひとりぼっちだと感じていたときのことを。
僕らがしばらくの間、語り合ったことを。
落ち着いて。伝えることがたくさんあるんだ。
あなたにすべて伝えさせておくれ”
歌詞をご紹介していきましょう。
なお、2番のBメロとサビはリピートとなっていたので割愛します。
どことなくロマンチックな出だしですね。
大人な恋愛が始まる予感を感じさせます。
とにかく愛を伝えるサビ
Crazy about your love
Thinking about you everynight everytime
Oh baby baby baby
Crazy about your love
You and I feel so lucky tonight
出典: Gun/作詞:髙橋海 作曲:髙橋海
”あなたの愛の虜になっているんだ。
毎晩、いつも、あなたのことを考えているよ。
ああ、愛する恋人よ。
あなたの愛の虜になっているんだ。
あなたも私も今夜はとても幸運だね”
サビ部分ではこれでもかと言うほど愛を伝えます。
髙橋の柔らかなウィスパーボイスでささやくように歌うこのパート。
幸せなムードたっぷりです。
ラストの「あなたも私も今夜はとても幸運だね」という部分。
話の流れから察するに王道のフレーズだと「HAPPY」になるでしょう。
でも「LUCKY」をチョイスしています。バンド名にもある単語ですね。
ワードとして気に入っているのでしょうか。
「幸福」より「幸運」のほうが、偶然性を感じさせます。
これは「2人が出会った」ことに対する「LUCKY」なのでしょうか。
それとも「HAPPY」という単語を口にするのが照れくさいのでしょうか。
「愛している」より「好き」のほうが言いやすいし、重くない。
ふわふわとした曲調も相まって、フットワークが軽い、ひょうひょうとしたワードチョイスですね。