「桜の栞」を卒業ソングと捉えるなら、着物に袴姿で歩く光景が浮かびます。
彩のある柄の着物に着替えて通いなれた通学路を卒業式に向かっているわけです。
例外はありますが高校生以下なら制服か私服なので、大学か短大の卒業式をイメージします。
学生としてこの道を歩くのはこれが最後。
2年か4年か短い年月ですが、いろんな学生時代の思い出が頭をよぎります。
卒業式が終わったら、期待と不安を胸に新しい人生の道を歩むことになります。
このAメロの後半から次のBメロの終わりまでは輪唱が続きます。
歌詞とメロディを微妙にずらして前後のハーモニーが重なり合い、美しいコーラスになっています。
とても古典的な歌唱法で、皆さんも学校の音楽で歌ったことがあるでしょう。
そうしたオーソドックスな歌い方をAKB48がしていることがかえって新鮮です。
人生の栞
桜の花は
別れの栞
ひらひらと手を振った
友の顔が浮かぶ
桜の花は
涙の栞
大切なこの瞬間(とき)を
いつまでも忘れぬように…
出典: 桜の栞/歌詞:秋元康 作曲:上杉洋史
サビになるこのBメロで、曲のタイトルにあるキーワード「栞」が登場します。
栞もまた古くから世界各地で使われていますが、日本では江戸時代に草花の栞がありました。
桜の散る頃になると、身の回りのいたるところにその花びらを目にします。
外で読書をすれば花びらの一枚か二枚は本の間に紛れ込むでしょう。
栞は本を読み進んだページの目印です。つまり今この瞬間の印でもあるわけです。
桜の花は命が短くてはかない。
その1週間余りの出来事は桜の季節として長く記憶に残ります。
春は卒業式の別れと、次なる新たな出会いの季節です。
桜の花びらは人生のページ(この瞬間)を目印にする栞となります。
この後に繰り返されていくBメロの歌詞が、この曲のテーマです。
桜の栞を人生のページに
未来に向けた2番の歌詞
空を見上げれば
その大きさに
果てしなく続く
道の長さを知った
晴れの日も雨の日も
明日は来るから
微笑みながら
一歩 踏み出す
桜の花は
未来の栞
いつか見たその夢を
思い出せるように…
桜の花は
希望の栞
あきらめてしまうより
このページ 開いてみよう
出典: 桜の栞/歌詞:秋元康 作曲:上杉洋史
2番で歌われるは希望に満ちた未来志向です。
まずはAメロから。
春の晴れた青空は希望に満ちていつもより大きく感じられます。
これまでの学生生活は3年、4年といった節目がありました。
これからはそのような決まった区切りはなく、長い道のりが待っています。
その第一歩をこれから踏み出すのです。
2番のBメロは1番のBメロを受けて、未来に向けた栞が語られています。
今の夢見みる希望を忘れないように。
心が折れそうになった時には、人生のページに挟み込んだ桜の栞を思い出そう。
そうすれば再び今の気持ちを思い起こすことができます。
栞を目印に過去の気持ちを思い出す
桜の花は
心の栞
輝いた青春の
木漏れ日が眩しい
桜の花は
あの日の栞
人はみな 満開に
咲いた夢 忘れはしない
出典: 桜の栞/歌詞:秋元康 作曲:上杉洋史
2番の歌詞に続いて「ラララ、ルルル」のスキャットを挟んで、Bメロがリフレインします。
この歌詞から桜の花が現在という時間に刻み込まれた記憶の栞であると分かります。
ここでは未来から過去を振り返った視点で語られています。
多くの人にとって青春時代はいろんなことがあったにせよ美化され輝いて見えます。
月日が流れても桜の花を見ればそれが栞となってその時の気持ちを思い出せる。
強く印象に残っている瞬間を忘れることはないと締めくくっています。
いつまでも
卒業メンバーとオーバーラップする
「桜の栞」は学校の授業でも歌われることを想定して作られたといわれています。
実際に採用した例があり、生徒によるコーラス映像がYouTubeにもあります。
秋元康プロデュースとはいえ地下アイドル的なスタートを切ったAKB48。
着実にファンを増やしていましたが、アイドルグループであることに変わりはありません。
その殻を破ろうとした試みが「桜の栞」だったのでしょう。
「アイドルグループを超える」の答えがこの曲だったといえます。
デジタルビートもダンスもない、一見するとアイドルからは程遠いシンプルな合唱曲です。
「桜の栞」がターニングポイントになって「恋するフォーチュンクッキー」(2013年)につながったと思います。
「桜の栞」の前年にリリースされた「10年桜」のMVはドラマ仕立てです。
ドラマは曲がリリースされた10年後の2019年と過去が交錯しています。
このMV自体突っ込みどころ満載で、解釈についてはいろんなサイトがあるのでそちらをご覧ください。
「桜の栞」のMVに登場する主要メンバーはもちろん。
歌番組に出演した際は、センターがいないのですが前列にいるメンバーはいずれもすでに卒業しています。
「10年桜」や「桜の栞」を歌ったAKB48のメンバー自身、すでにそれぞれの道を歩んでいます。
その時の姿と歌を記録した映像は、栞としていつまでも残っていきます。
この記事で取り上げたAKB48の桜ソングについては、OTOKAKEで詳しく解説した記事があるのでご覧ください。