羊文学の世界観がたっぷり詰まった一曲

大人と子供のはざ間にある悩める心を

「あいまいでいいよ」はアルバム「POWER」の先行シングルとしてリリースされました。

この楽曲は、社会と自分の心の差を切なく描いた作品です。

とくに、そんな思春期を過ぎる頃は、心があいまいでもどかしいことが多いもの。

「あいまいでいいよ」は、そんな危うげな世代にフォーカスされています。

曲調は軽やかでありながら切なく柔らかく、少しばかり闇も感じることができます。

とくに伸びやかなボーカルの高音と、切ないメロディラインが特徴的です。

聴く人の環境に合わせて様々な感情を想起させる情緒的な作品となっています。

テンポも穏やかで、耳馴染みの良いのが特徴です。

大人への階段を昇る頃のあいまいさを

「あいまいでいいよ」の曲中では、大人になり切れない2人を中心にフレーズが展開します。

登場する彼らは若く、恋や愛も実感が沸きません。

そんな中で、お互いを思う気持ちと自分達の将来への不安が描かれています。

身体は大人へと成熟を始める頃なのに、心は未成熟なまま。

不安定な思春期から成長を始める頃は分からないことばかりでした。

そのうえどこか刹那的で、心に広がる闇があったりもします。

誰しもあったのに、大人になって忘れてしまった闇。

羊文学は、そんな所在ない世代を切なく描くのがとても上手なアーティストです。

今回の「あいまいでいいよ」は、葛藤と成長そして共感がテーマです。

切ない感情を感じる「あいまいでいいよ」の歌詞の意味を考察し、意図を深堀します。

「あいまいでいいよ」の歌詞に描かれるもの

冒頭は関係性とその先の不安

恋人たちは今もまだ
お互いの気も知らないで
よくある歌のロマンスの影
追いかけるようにしてすれ違う

出典: あいまいでいいよ/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ

冒頭の歌詞に登場するのは、テーマとなる2人の関係性です。

恋人たちである彼らなのですが、その関係も「あいまい」なようです。

お互いの気もまだ掴めていないほど、2人はまだ若く幼い心にある様子。

よくある歌のように、ロマンスの影を真似て、恋愛を始めたのでしょう。

すれ違っていると感じるほど、まだ互いが良く理解できていないのです。

表現されているのは恋人だけれど、まだ通じ合えない間にあるということでしょう。

相手との関係性をどう保つか分からない、未成熟な関係性にある恋人たち。

まだ若く愛や恋を実感でず、世の中がよくいうロマンスを真似ています。

真似ているだけだから、すれ違ってしまう、そんな切ない関係にあるようです。

慣れない関係性に少し億劫さを感じている

のんびりと留まって
待ちくたびれる

出典: あいまいでいいよ/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ

恋は難しいと感じる方は多いのではないでしょうか。

それが初めての恋でも、何度も経験したとしても同じです。

それは他人と心を通わせるということが、難しいからではないでしょうか。

単に恋しいと思うだけなら1人でもできます。

しかし相手がいれば、その相手に合わせ、理解することが求められます。

それがよく分からないから、恋は難しいと感じるのでしょう。

分かりそうなことなのに、分からないし、何よりなのを考えているのか掴めない。

分からないことが多いと、人は疲れてしまうものです。

届かない思いを考えるうちに、考えること自体が億劫になる。

飽きにも似た感情を持ち始めた彼らの、心もとない様子を感じさせます。

印象づける「あいまいでいいよ」の表現

あいまいでいいよ
本当のことは後回し

出典: あいまいでいいよ/作詞:塩塚モエカ 作曲:塩塚モエカ

この曲のタイトルでもある歌詞のフレーズです。

特徴的なのは、伝えたい部分について、倒置法が活用されているところでしょう。

「本当のこと」を後にして、先に「あいまい」が表現されています。

そこまで強調するほどに、なにを「あいまいでいい」のか。

その後に登場する「本当のこと」が、この言葉に続きます。

つまり、羊文学が表現したいことは、「本当のこと」についてということでしょう。

本当のことは実は「あいまいなままでいい」ということではないでしょうか。

ではなぜ、あいまいなままでいいのか。

それについては、その歌詞全体から世界観を読み解くことで明らかになります。

歌詞から読み解く世界観