レミオロメン「3月9日」「恋愛ソング」が「卒業ソング」として歌われ続けている理由とは?の画像

砂ぼこり運ぶ つむじ風
洗濯物に絡まりますが
昼前の空の白い月は
なんたかきれいで見とれました

上手くはいかぬこともあるけれど
天を仰げば それさえ小さくて

出典: 3月9日/作詞:藤巻亮太 作曲:藤巻亮太

ここでは、『結婚に向かうふたり』をイメージさせるフレーズが続きます。

少し砂ぼこりが混ざった春の風。洗濯物を干すのに苦労して、たぶんイライラしているのでしょう。

そんなとき、空に見えた白い月は、自分の心を癒してくれたのでした。

「結婚して、いろいろ苦労することがあるかもしれないけれど、そんなこと大したことじゃない」

そんな意味が込められているのかもしれません。

大切な人の隣で

青い空は凛と澄んで
羊雲は静かに揺れる
花咲くを待つ喜びを
分かち合えるのであれば それは幸せ

この先も 隣で そっと微笑んで

出典: 3月9日/作詞:藤巻亮太 作曲:藤巻亮太

穏やかな春の日の一場面です。

『結婚へ向かうふたり』的な解釈では、これからふたりで一緒に愛を育んでいこう、という気持ちが感じられます。

『親しい関係性を持った人びと』的な解釈をしてみると、「花咲くを待つ喜び」というフレーズは、たとえば「入学」や「就職」といった新たな門出を祝うという意味にとれるかもしれません。

また、「この先も隣でそっと微笑んで」というフレーズの中の「隣」にいるのは、家族でしょうか?友人や仲間でしょうか?

いずれにしても、「私」と「あなた」を超える奥深い歌詞に思えます。

新しい旅立ちの歌

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瞳を閉じれば あなたが
まぶたのうらに いることで
どれほど強くなれたでしよう
あなたにとって私も そうでありたい

出典: 3月9日/作詞:藤巻亮太 作曲:藤巻亮太

『結婚へ向かうふたり』的な解釈と『親しい関係性を持った人びと』的な解釈で歌詞を見てきました。

こうしてみると、「3月9日」は、『結婚へ向かうふたり』の新たな門出(結婚式)のための歌=『恋愛ソング』はもちろんのこと、『親しい関係性を持った人びと』の新たな旅立ちを祝う歌=『卒業ソング』としても、見ることができると思います(やや強引な解釈の部分もありますが)。

いずれにしても「3月9日」の歌詞は、穏やかな春の情景を切り取りながら、誰にでも自分の体験としてその情景が思い浮かぶようなフレーズをならべた、新しい旅立ち(=出発)の歌と、とらえることができます。

『テクスト論』で読み解く「3月9日」

冒頭でご紹介したとおり、もともと「3月9日」は、メンバーの共通の友人の結婚式を祝うためにつくられた曲でした。

それが、卒業ソングとして歌われるようになったのは、テレビドラマ「1リットルの涙」で合唱コンクールの課題曲として取り上げられたことも要因の一つですが、これまで見てきたように「3月9日」の奥深い歌詞が、聴く人のそれぞれの追体験として「旅立ち=出発」を思い起こさせることも大きな要因なのではないでしょうか。

文芸・思想の世界では、文章を作者の意図に支配されたものと見るのではなく、あくまでも文章それ自体として読むべきだとする「テクスト論」という考え方があります。

すなわち、作品という形でいったん文章が書かれれば、作者自身との連関を断たれた自律的なもの(=テクスト)となり、作者の思いとは別に、多様な読まれ方を許すということです。

「テクスト論」的にいうと、結婚式のお祝いのための『恋愛ソング』としてつくられた「3月9日」は、作詞した藤巻さんの思いを離れ、多くの人にとって「旅立ち」をイメージさせる『卒業ソング』として存在している、と解釈することができるかもしれません。

ただ、レミオロメンとしては、そういう多様的な読み方(=歌われ方)を想定しているところもあってか、「3月9日」のミュージックビデオは、前半を妹の卒業式、後半を姉の結婚式、という姉妹の物語として作られています。

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それぞれの『旅立ちの日』としての「3月9日」

「3月9日」は、作者の思いを離れ『旅立ちの日』として多くの人の心に刻まれることになりました。

ミュージックビデオに花婿役で出演していた俳優の池田鉄洋さんは、自身も2014年3月9日に挙式したそうです。

また、このミュージックビデオに妹役で出演していた堀北真希さん。

当時15歳で、まだそれほど世間に知られていない存在だった彼女。

その後、「野ブタ。をプロデュース」や「梅ちゃん先生」などの演技が評価され、紅白歌合戦の司会も務めるなどの国民的な人気を博しました。

彼女は2015年8月22日に結婚され、先日、2017年2月28日をもって芸能界を引退することを発表しました。

そして、2012年2月以降活動を休止している「レミオロメン」。

この「3月9日」を聴くと、「区切り」をつけて「出発」する、それぞれの人々の情景が浮かんできます。

「3月9日」という日は、これからもそれぞれの『旅立ちの日』として、人々の心に刻み込まれていくに違いありません。

「3月9日」の「卒業ソング」っぽさはどこにあるのか

3月と桜のイメージ