「やさしさが怖かった」理由

実は男性目線だった?

若かったあの頃 何も怖くなかった
ただ貴方のやさしさが 怖かった

出典: 神田川/作詞:喜多條忠 作曲:南こうせつ

曲が進むにつれ、歌詞からは別の疑問も湧いてきます。

それは「貴方のやさしさが怖かった」という告白。

「やさしさ」が怖いとは、何を意味するのでしょう。

想像されるのは「相手が何か隠し事をしているのではないか」という疑念。

あるいは、経済的に困窮する中で「相手の『やさしさ』が、いつまで続くのだろうか」という不安です。

しかし、喜多條自身は後の新聞対談で、驚くべき真相を明かしています。

学生運動の最中、機動隊と衝突する激しいデモ活動に明け暮れていた自分。

疲れ果てて帰ると、学生運動と無縁の彼女は穏やかにカレーライスを作っている。

そんな彼女を見ていると、平穏な暮らしについ心を奪われそうになる。

しかし、それは活動家としての自分の信念を揺るがせることに他ならない。

自分のために料理を作る彼女の「やさしさ」こそが、自分にとって最も怖いことなのだ。

つまり、「神田川」のサビは、男性の視点で書かれた歌詞だったのです。

男女の目線が入り混じった歌詞

新聞対談の中で、喜多條はさらなる真相も明かしています。

横丁の風呂屋の外で待たされていたのは、自分でもあるということ。

当時の若い男性の間で流行していたのは、女性と見紛うような長髪。

喜多條は「神田川」の歌詞の語り手が男性であるか女性であるかは「よく分からない」とも発言しています。

過ぎ去った同棲生活を振り返る中で、濃密な時間を共にした男女の思いが交錯した曲。

それが「神田川」だったのです。

何気ない2人の暮らしから見える回想

2人はもう別れてしまったのか?

貴方はもう捨てたのかしら
二十四色のクレパス買って
貴方が描いた私の似顔絵
うまく描いてねって言ったのに
いつもちっとも似てないの

出典: 神田川/作詞:喜多條忠 作曲:南こうせつ

それでは2番の歌詞をみていきましょう。

2人の暮らしっぷりは、実に微笑ましいものを感じさせます。

男性は、主人公の女性には非常に優しい性分です。

お金はないけれども精神的な幸福感は十分すぎる2人でした。

部屋に帰れば、主人公の女性にねだられたことは大抵、実行します。

似顔絵描きもその一つでした。

出来上がりは全然、似ていないのですがそれでも主人公にとったら最高の瞬間なのです。

そんな楽しかったあのひと時が昨日の出来事のように思い出されるのでした。

2番の歌詞は過去の回想?

ところが歌詞には気になる言い回しが出てきます。

私を描いてくれるために買ったクレパス。

それをもう捨ててしまったの?と描写されています。

ということは主人公と男性は、もう既に別れてしまっているのでしょうか?

1番の歌詞では貧しいながらも幸福感にあふれた2人を描写していたはずなのに。

歌詞のところどころに登場する「過去形」がどうしても昔を懐かしんでいるように映ります。

そんな思いを巡らせながら歌詞は続きます。

男女の終焉が近づいてきた

窓の下には神田川
三畳一間の小さな下宿
貴方は私の指先見つめ
悲しいかいってきいたのよ

出典: 神田川/作詞:喜多條忠 作曲:南こうせつ

本来ならば愛し合っているはずの2人に過去を振り返る気分はいらないはずです。

なのに歌詞は明るい未来を連想させてくれません。

何か、破局の匂いを感じさせてしまいます。

「神田川」に登場する主人公は女性ですが、1番にもありますように作詞者・喜多條忠自身です。

自身の回想を女性の姿に変えて語っているのです。

やはりこの先、彼女を幸せにする自信がなかったのでしょう。

アルバイトもままならず学業以外のことに身をやつす男性。

生活の糧を確保できない男がどうして主人公の女性を幸せにすることができよう。

このままズルズルと一緒に暮らしていてもそこには絶望が待っているだけ。

そんな不安と葛藤し続ける男性の心がこの2番の歌詞に描写されているようですね。

歌詞は2番の最後のサビに入って3分ちょっとの演奏を終わります。

こうなる運命を避けられなかった2人

男性のやるせない思い