ここでいう「君」というのは一体誰のことを指しているのでしょうか。
これは主人公が忘れられない思い出の中に登場する人物を指しているのかもしれません。
だとしたら、彼にとって大切な人もしくは彼が好きだった人のことだと考えられます。
そんな「君」のことを今でも鮮明に思い出せるということからも、彼の心がまだそこに囚われているのが分かるでしょう。
しかしこの「君」という存在が指すものに対して、こんな考え方もできるのではないでしょうか。
それはこの「君」というのが、過去の自分を指しているという考え方です。
若く初々しい自分を思い出すことで、まるでその若かった頃の自分が隣にいるような気持ちになっている。
この1行はそんな解釈の仕方もできるのではないでしょうか。
過去から逃れられない
過去に心が縛られている理由
行き場をなくした言葉の代わりに
手を振ることさえできずにいるんだ
出典: 駆ける/作詞:澤部渡 作曲:澤部渡
ここでは主人公が抱える後悔の気持ちが表現されています。
彼が思い出を忘れられず、心がそこに縛られている理由が書かれているのでしょう。
彼は「君」に対してかけてあげたかった言葉があるのです。
それをかけてあげられなかったことに対して、大きな未練を抱えていると考えられます。
その言葉が宙に浮いて今でも主人公の頭の片隅を支配しているのでしょう。
「君」というのが彼の過去の好きな人だったとするならば、この言葉というのは告白の言葉を意味しているのかもしれません。
「好き」だという気持ちを伝えられなかったことにより、今だに彼の心には穴が空いているのでしょう。
その穴を知らんぷりして、諦めようとしても諦めきれない。
2行目からは、その過去を振り払おうとしても振り払えない彼の苦悩が伝わってきます。
心に仕舞い込む
鍵をかけ全てしまおう
出典: 駆ける/作詞:澤部渡 作曲:澤部渡
ここではそんな自分の想いに対して蓋をしてしまおうとする彼の心情が描かれています。
忘れられないのだとしたら、胸の奥底に仕舞い込んでしまおう。
そうして人に悟られないように、墓場まで持って行こうと考えているのかもしれません。
主人公は過去への未練を吹っ切ろうとして、吹っ切れなかったのでしょう。
だからもう自然に忘れるまでずっとその気持ちを抱え続けようと考えているのかもしれません。
「忘れる」という言葉は自分の内側から外側へ何かが追い出されていくような印象を受ける言葉です。
それに対して「しまう」という言葉からは、それを自分の内側深くに閉じ込めるような印象があります。
この歌詞の冒頭の「鍵」という言葉からも、その違いが顕著に感じられるのです。
彼はその後悔を胸に抱えたまま生きて行こうと考えているのかもしれません。
未来に向かって走り出す
ある場所を目指す主人公
綯交ぜの気持ち抱えて
痩せたアスファルト駆ければ
出典: 駆ける/作詞:澤部渡 作曲:澤部渡
1行目が表しているのは前を向こうとする自分と、過去に囚われている自分という相反する2つの気持ちのことでしょう。
彼はその2つの気持ちの狭間で揺れ動いているのかもしれません。
前を向こうにも過去が邪魔をしてうまく進めない自分の心情を表していると考えられます。
2行目の言葉からはそんな自分の心情を無視するかのように駆け出す主人公の姿が想像される表現です。
混乱する自分の気持ちを振り払うかのようにアスファルトの地面を蹴り、走り出す主人公。
過去を吹っ切りたいというそれだけの感情によって、無理矢理にでも道を進んで行こうとしているのでしょう。
主人公が辿り着きたい場所
私でもたどりつくかな?
出典: 駆ける/作詞:澤部渡 作曲:澤部渡
そしてこちらが「駆ける」の最後の1行です。
彼は前述の歌詞パートで解説したように無理矢理にでも未来を向いて行こうとしています。
その先の未来にある彼が辿り着きたい場所というのは一体何なのでしょうか。
それはもしかしたら、自分にとって今抱えているような曇った感情のない未来のことを指しているのかもしれません。
彼は過去に囚われていることによって、劣等感を抱えていると考えられるのではないでしょうか。
だからこそ無理矢理そんな自分の気持ちを振り払うことで、清々しい気持ちを手に入れたいと思っているのでしょう。
もしかしたら彼にはこの先の未来に、叶えたい目標があるのかもしれません。
だからこそ、後ろ髪を引かれるような気持ちを振り払おうと必死なのでしょう。
過去の「君」と対峙しながら、それでも歩を前に進めていくのは主人公。
「駆ける」には過去と向き合いながらも、未来に向かって走って行こうとする彼の力強さが込められていました。