ビジュアルで抜きん出たアイドル
3人セットでなくても大丈夫!
70年代の芸能界は3人をセットにして宣伝するようなところがありました。
男性アイドルでは郷ひろみ・野口五郎・西城秀樹の『新御三家(しんごさんけ)』が有名です。
女性アイドルでは南沙織・天地真理・小柳ルミ子の3人が71年にデビュー。
72年デビューの麻丘めぐみの同期には人気オーディション番組『スター誕生』出身の森昌子がいます。
しかし彼女は同じ番組出身で翌年デビューの山口百恵・桜田淳子とともに『花の中三トリオ』と呼ばれました。
男子を魅了したお姫様カット
ひとりだと可哀想かというとまったくそんなことはなくて、まずビジュアルが抜きん出ていました。
”お姫様カット“と呼ばれた長い髪と大きな瞳、スラリと伸びた長い脚と可愛い笑顔。
それに彼女の身長は165センチもあって当時のアイドルとしてはかなり背が高かったのです。
歌手としても心地よいちょっと甘えた声が高音になるとさらに甘く響いて、男子の胸に届きました。
特に73年のヒット曲「わたしの彼は左きき」を聴いた左ききの男子たちはきっと嬉しかっただろうと思います。
作詞作曲は千家和也&筒美京平
左ききに生まれて良かった?
麻丘めぐみ72年のデビューシングル「芽ばえ」は、明るい彼女の声が心地よい曲でした。
作詞作曲は千家和也(せんけかずや)と筒美京平のコンビで、翌年の「わたしの彼は左きき」も彼らの作品です。
筒美京平は学生時代にジャズピアノをやっていて、卒業後に洋楽のディレクターとして業界に入りました。
「わたしの彼は左きき」のはずむようなリズムになんとなくジャズや洋楽の香りがするのはそのせいでしょうか。
むしろ畑違いの歌謡曲の世界で数多くのヒット曲を生み出したことが驚きです。
彼はインタビューで『ヒット商品を作るのが職業作家の使命だ』と語っていて、そのとおりに実行してきました。
そんな彼が書いた明るいメロディーが麻丘めぐみのキャラクターにぴったりとはまったのです。
そしてこの曲が強い印象を残した理由のひとつに、千家和也の書いた歌詞があるのは言うまでもありません。
左ききといういわば少数派に初めてスポットを当てた功績は大きいと思いますね。
左ききで良かった!と喜んだ男子がたくさんいたのではないでしょうか。
“左きき”は彼のアイデンティティ
他の人と違うところが好き?
小さくなげキッス するときもするときも
こちらにおいでと 呼ぶときも呼ぶときも
いつでもいつでも彼は 左きき
あふれる涙を ぬぐうのもぬぐうのも
やさしく小指を つなぐのもつなぐのも
いつでも いつでも彼は 左きき
出典: わたしの彼は左きき/作詞:千家和也 作曲:筒美京平
ここからはもう純粋に楽しいアイドル歌謡の世界です。
可愛らしい振り付けで歌う麻丘めぐみを見て自然と笑顔になる人も多かったのではないでしょうか。
この曲は短めのイントロからすぐに歌に入りますが、そのイントロがよく出来ているのです。
明るいブラスと手拍子、女性コーラスで一気に気分を盛り上げるのはアレンジャーのセンスもあったのでしょう。
歌に入ってからはシンプルだけどメロディアスなベースラインがまた楽しい気持ちにさせてくれます。
さて、彼女が大好きな彼氏は左きき。
他の人と違っているところが嬉しいのでしょうね。
たとえば背が高いとかハンサムだとか足が長いとか。
自分の彼氏が他の人と違っているところを見つけるのが嬉しいのです。
歌詞が”左利き”ではなくて”左きき”となっているのは、こちらのほうが可愛く感じるからだと思います。
どちらでも良さそうなものですが、作詞家はこういうところにもこだわるのでしょう。
歌詞を渡された麻丘めぐみもすんなりと歌の世界に入れたのではないでしょうか。
彼が左ききなんだと気が付いた彼女は、彼氏の左手が動くたびに気になって仕方がありません。
投げキッスに手招き、涙を拭いたり小指をつないだり。
年頃の女の子が喜びそうな仕草のひとつひとつはすべて彼の左手から生まれます。
左ききだから好きなのではなくて、好きな人が左ききなことが彼女にとっては嬉しいのでしょうね。
他の人とは違う彼のアイデンティティが“左きき”なのです。
意地悪な彼と拗ねる彼女
すれ違いがもどかしい?
あなたにあわせて みたいけど
わたしは右きき すれちがい
意地悪 意地悪なの
別れに片手を 振るときも振るときも
横目で時計を みるときもみるときも
わたしの わたしの彼は 左きき
出典: わたしの彼は左きき/作詞:千家和也 作曲:筒美京平