「オートリバース~最後の恋~」と謎
2019年11月20日発表、斉藤和義の通算49作目のシングル「いつもの風景」。
このシングルのカップリング曲「オートリバース~最後の恋~」の歌詞を紐解いて解釈します。
男女の哀しいお別れのシーンを歌った歌詞です。
切なく感じるのは少し衝撃的な展開を含むからかもしれません。
歌詞をただ聴き流したり読み流しているだけでは見えない意味について解明できればと思います。
斉藤和義は「オートリバース~最後の恋~」でどんな愛を歌ったのでしょうか。
歌詞の情報量はわずかな量かもしれません。
しかし端的な言葉の中に様々なドラマの伏線を潜ませている辺りが斉藤和義らしいでしょう。
未来ある元パートナーと失望のために恋愛を諦めてしまう語り手の最後の夜の風景が描かれます。
気怠ささえも滲む音楽に胸が痛むような切なさを感じながら斉藤和義が歌詞に込めた真意に迫りましょう。
それでは実際の歌詞をご覧ください。
この気怠さは何だろう
君にはこの先にまだ恋がある
僕には最後の恋でも
君はそうじゃなかった
出典: オートリバース~最後の恋~/作詞:斉藤和義 作曲:斉藤和義
歌い出しの歌詞になります。
斉藤和義らしいフォーキーなサウンドですが気怠い雰囲気が全編に漂っています。
エモーショナルでありながら抑制も利かせたボーカルが見事でしょう。
登場人物は語り手の僕と元のパートナーの君です。
お別れの場面ですので「元」パートナーになりたてで昨日まではパートナーだった君。
語り手の僕はこの恋に賭けていたようです。
しかし君はどこかで新しい人を見つけてしまったよう。
男女の別れには様々な原因が考えられます。
僕は君が他の誰かを見つけてしまったことに失望しますが詰ることをしません。
ただ脱力感に打ちひしがれて怒ってみせることもできないのでしょう。
また君の心が新しい恋に向かっているようなときに「元」パートナーの僕が何をいっても時間は戻せない。
そんな無力感さえ感じている状況です。
ときはいたずらに過ぎて最後の夜が更けてゆきます。
僕は君との最後の夜で涙を堪えながら過ごすのです。
本来ならば僕の気持ちは荒れ果てたものでしょう。
その証拠に僕はもう恋愛などしないと心に決めてしまいます。
信じていた君に裏切られたのですからこうして刺々しい思いを抱くのも無理がないことでしょう。
いつか僕の傷が癒える日も来るはずです。
しかしそのときには君との日々はもう遠い過去の思い出に過ぎないでしょう。
僕には過去の経験がある
君には最初の愛でも
僕はそうじゃなかった
出典: オートリバース~最後の恋~/作詞:斉藤和義 作曲:斉藤和義
恋をしたときに相手の過去の恋愛の経験値を気にする人がいます。
いいように歳を重ねるとそうしたこだわりはバカバカしく思えるものです。
しかし若いカップルの場合はこうした経験値の違いを過剰に気にする人もいるでしょう。
心のどこかに嫉妬の悪魔が潜んでいて今の相手のそのままの姿よりも過去を気にしがちです。
ただ「オートリバース~最後の恋~」の場合、僕は君には振り返る過去がないことに惹かれたのかも。
もしくは僕にとっての最後の恋である君との不思議なめぐり合わせを強調したのかもしれません。
ともかく君が初めてお付き合いした男性が僕です。
しかし冒頭で見たように君は僕以外の男性になびいてしまいました。
歌詞を先回りするようですが僕はそのことで不思議なくらいに君を詰ったりはしません。
僕の諦念のようなものが何に由来するのかは明示されないです。
なぜ僕はこれほどに理解があって諦めも早いのかは想像するしかないでしょう。
僕は君を手放すどころか恋愛というものと関わることを拒絶してしまいます。
君は最初の頃こそ初めての本格的な恋愛に心躍らせたはずです。
一方でこんなにも簡単に愛を手放してしまう僕の方はどうでしょうか。
君との出会いの前にも僕には過去の経験がありました。
その過去においてすでに愛に幻滅するような出来事を経験していたのかもしれません。
反面、君の方は知り始めた愛の悦びをもっともっと刹那に求めるうちに新しい男性と出会ってしまった。
そんな想像を呼び起こされる描写です。
君はこの先にさらに様々な恋愛を経験してゆく可能性だってあります。
対照的に僕の方は早い時期に恋愛の中で傷付きすぎて臆病になったのかもしれません。
僕は愛そのものの意義を人生の中で見失った男性なのです。
僕の荒涼とした思い
放熱・脱力したような夜
夜はすべてを隠して
何処か遠い遠い海へと運ぶよ
出典: オートリバース~最後の恋~/作詞:斉藤和義 作曲:斉藤和義
舞台設定は僕にとっての最後の恋の別れ際です。
この夜こそ君と過ごす最後の夜でしょう。
君は僕には裏切りともいえるような新しい恋に向かっています。
旧い言葉だと不貞というような行動をするのです。
僕への愛に対する裏切り行為をするのですが、最後の夜に波風を立たせる気は僕にはないのでしょう。
静かな別れ方をしたいと僕は願っているのかもしれません。
愛というものの醜い側面であるエゴイスティックな何事かを夜の闇は隠してくれます。
お別れはとても静謐な瞬間を迎えるのですが、それは僕にはもう語る言葉もないことに由来するのです。
実際に君はもう新しい男性の方へ心が向いているという事実があります。
泣いてすがったり、不貞を詰ったりしたところで状況は変わらないだろうという諦めが漂うのです。
最後の夜はこうした僕の諦念がもとになって静かな夜になっています。
僕は君を失うという事実に対して、淡々とした思いしか語りません。
実際に君に浮気された、あるいは君が本気の愛を他の男性に求めています。
そんな君を僕ももう愛してはいません。
遠ざかってゆくのはふたりのこれまでの日々でしょう。
離岸流に呑み込まれたように沖合に流されてやがては些細な記憶に収まるような愛の姿が描かれます。
「オートリバース~最後の恋~」には熱というものが抜け落ちている印象があるのです。
脱力しきった僕の心境を反映するような歌詞とサウンドになっています。
この先の君の幸せを祈ること
ただそれだけの
ただそれだけのこと
君の新しい幸せを祝おう
出典: オートリバース~最後の恋~/作詞:斉藤和義 作曲:斉藤和義