六兆年と一夜物語の世界観

kemuの構築するワールド

kemuのボカロ曲はその物語性が非常に有名です。

「人生リセットボタン」をはじめ、8曲が関連するとされています。

これらの楽曲に共通するのは動画に出てくる立方体や「耳鳴り」という言葉。

オムニバス形式の物語を読んでいるような世界観は、多くのボカロ曲ファンを魅了しています。

これらのワールドのキーワードは「願いを叶える」ということ。

なんでも叶えてくれる装置のようなものが、キーとなっているのです。

とはいえ答えが明示されたわけではありません。

「六兆年と一夜物語」はノベライズされていますがそれも解釈の一つ。

無限の解釈ができるのです。

その幅広さこそ、kemuの曲の魅力といえるでしょう。

サウンドの特徴

六兆年と一夜物語はいわゆる「和ロック」に分類されます。

日本の音階の一つ「ヨナ抜き音階」が元になっているためです。

和楽器バンド」もカバーするほど、和楽器とも相性がいいサウンド。

そこにロック調のドラムベースが入っています。

そのため、日本古来の音階にロック調を組み合わせたサウンドといえるでしょう。

さらに、この曲の特徴は打ち込みも使われていること。

ボーカロイド「IA(イア)」がメインボーカルのため、機械音とも相性が良いのです。

IAの透明な歌声と和音階、ロック、そして打ち込み。

これらの要素が見事に合わさって六兆年と一夜物語の世界観を作り上げています。

忌み子の少年のお話

鬼子の少年

名も無い時代の集落の
名も無い幼い少年の
誰も知らない おとぎばなし
産まれついた時から
忌み子 鬼の子として
その身に余る
罰を受けた

出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu

六兆年と一夜物語の歌詞は、昔話のように始まります。

動画内の、白髪の少年の名前は小説版では「リク」だそうです。

忌む、という言葉は本来「ケガレを嫌い、避ける」ということ。

つまり忌み子の役割はスケープゴートのように、他人のケガレの身代わりとなることです。

ただ、本人には分かりません。

生まれてきてからずっと身代わりとして暴力を受けてきたせいです。

存在さえも罪とされるような扱いに慣れきってしまっているのです。

温もりと寒さ

知らない知らない僕は何も知らない
叱られた後のやさしさも
雨上がりの手の温もりも
でも本当は本当は本当は本当に寒いんだ

出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu

生まれつき鬼子として扱われてきた少年は、当然親の顔も知りません。

そのため、叱られることも知らず、雨に打たれれば打たれっぱなし。

人の温もりを知らずに生きています。

そのため、悲しい、寂しいという言葉は分かりません。

情緒も育っていない幼い少年なのです。

だからこそ「寒い」という表現になるのです。

この「寒さ」は心が寒い、という意味だと考えられます。

本当の寒さは体感しているけれど、寂しさを表す言葉は教えられていないのです。

「君」との出会い

禁忌を犯す「君」

吐き出す様な暴力と
蔑んだ目の毎日に
君はいつしか
そこに立ってた
話しかけちゃだめなのに
「君の名前が知りたいな」
ごめんね 名前も
舌も無いんだ

出典: 六兆年と一夜物語/作詞:kemu 作曲:kemu

2番では、「君」と少年の出会いが描かれます。

少年の目の前に立っている「君」は、動画内の白髪の少女です。

彼女もまた、忌み子として扱われる子どもでした。

ただ、彼女の場合はそれほど暴力を受けていません。

話しかけるという禁忌を犯していることからも、彼女は神の子のような扱いなのでしょう。

少年とは真逆の立ち位置ですが、同時に彼女も一人ぼっちなのです。

だからこそ、一人ぼっち同士仲良くなろうと名前を聞いたのでしょう。

しかし、少年にはどうしようもありません。

忌み子として扱われた少年に名前は与えられていません。

しかもどうやら罰の一環として舌を抜かれており、声が出ないのでしょう。

手の温度