そして僕は途方に暮れる
出典: そして僕は途方に暮れる/作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸
早速のタイトル回収です。
「そして」という接続詞の使い方が効果的だったりしました。
このラインに感じる「僕」の燃え尽き感がリスナーを切ない想いにさせます。
決め台詞にも似た必殺のフレーズ。
銀色夏生の詩才の冴えに当時のリスナーは釘付けになりました。
また大事なのはこのラインを歌うときの大沢誉志幸のハスキーな発声です。
言葉の後の余韻を引き伸ばすようなサウンド・プロダクションも見事でした。
この曲は何に関しても当時のポップスの最先端をゆくようなエレメントで構成されています。
「一億総中流社会」の姿
想い出のリムジン
ふざけあったあのリムジン
遠くなる 君の手で
やさしくなれずに 離れられずに
思いが残る
出典: そして僕は途方に暮れる/作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸
過去に遊んでいた日々のリムジンが登場します。
現代では経済格差が広がっていて「勝ち組」「負け組」の間では会話もできないほどになっています。
しかしこの曲が発表された1984年は「一億総中流社会」とよばれる社会構造です。
ハイソサエティの文化は庶民にとっても手の届かないものではありませんでした。
リムジンが普通の社会ではありません。
しかし中流社会の人々にとって馴染みのないものではなかったです。
大沢誉志幸や銀色夏生ともにまだ駆け出し。
しかしバブル経済前夜。
背伸びをしてリムジンを利用し遊びに行ったこともあるでしょう。
相互依存から「君」は抜け出す
そんな楽しかった日々は「君」の一存で遠くなります。
お互いが愛を持ち寄るのですが残念ながらぴったり完璧な相性ではなかったようです。
それでもふたりの愛はルーチンと化していました。
相互依存関係が成り立っているのです。
そんな泥濘の中から「君」は旅立とうと決めます。
季節の変わり目で見るものは
「僕」のせめてもの思い遣り
もうすぐ雨のハイウェイ
輝いた季節は
君の瞳に何をうつすのか
そして僕は 途方に暮れる
出典: そして僕は途方に暮れる/作詞:銀色夏生 作曲:大沢誉志幸
高速道路上で雨に当たります。
雨はおそらく天候が変わった、次いで状況が変わったことを指すのです。
「君」は「僕」の元を離れて新しい環境に向かいます。
「僕」は「君」の決断を尊重する一方で、「君」の決断が招く結果が気がかりです。
「君」はその決断で幸せになれるだろうか?
その眼でどんな未来を見つめるのだろう。
「君」の生活が幸せに満ちたものであるといいくらいの思い遣りは残しつつも「僕」には空虚な想いが燻ります。
海外のアーティストによる演奏
ジャパン・マネーの使いみち
シンセサウンドが中心になっていますがこの時代にしてはビートが強調されているのも特徴です。
「僕」の空虚な想いを音で表現したような淡々と響くビート。
打ち込みではなくブライアン・アダムスのバックを務めるミッキー・カリーによるもの。
他にこちらも淡々と抑制したギターはホール&オーツのG.E.スミス。
ベースはなんとキング・クリムゾンの怪人トニー・レヴィンです。
キーボードはたくさんのアーティストをプロデュースした富樫春生。
日本人アーティストが海外の演奏家をレコーディングで多用した時代です。
ジャパン・マネーの威力と大沢誉志幸の意外な人脈がなし得た業。
今は日本人アーティストの腕も実力も向上して海外での録音は不要になってきます。
一方でジャパン・マネーは制作現場から枯渇してしまいました。
これほどに豪勢なレコーディング・メンバーによる製作は今後減ってゆくばかりでしょう。