白い坂道が空まで続いた
ゆらゆらかげろうが
あの子を包む
誰も気づかずただひとり
あの子は昇っていく
何も恐れない そして舞い上がる
出典: ひこうき雲/作詞:荒井由美 作曲:荒井由美
ポップでおだやかな曲調なので、少し聴いただけでは気付かないと思いますが、この曲は「死」がテーマになっています。
松任谷由美が小学生の時に、難病を患っていた友人がいました。その友人は高校生の時に亡くなってしまいます。そのお葬式に行った時に、小学生以来に見た写真の中の彼が「大人の顔をしていた」ことに衝撃を受けて作ったそうです。
このことから、歌詞の中に出てくる「あの子」とは死んでしまった友人のことを指しているのだと思います。
死者の進む道
白い坂道が空まで続いていた
出典: ひこうき雲/作詞:荒井由美 作曲:荒井由美
ここで歌われている坂道は、死んだ人が昇っていく道のことでしょう。
真っすぐに空まで伸びた坂道が目に浮かんできます。
陽炎は晴れた日、風もない日に起きるものです。
季語としては春を示していますが、初夏の晴天が目の前に広がっているように感じます。
死んだあの子は見えそうで見えない、振り返ることもなく登っているのでしょう。
そこにあの子はいるのに、誰も気づいていません。
おそらく皆は悲しみに包まれ、死んでしまったあの子の肉体だけを見ているのではないでしょうか。
しかし、もうあの子は肉体を離れ自由になっているのです。
誰も気づかずただひとり
出典: ひこうき雲/作詞:荒井由美 作曲:荒井由美
ひとりという言葉は寂しさを感じるものですが、ここで歌われている「ひとり」には自由を感じます。
病気から解放されたあの子が、空に昇ることを喜んでいるかのようにも聴こえるのです。
病気からの解放
友人の死は辛く悲しいものです。
しかし、ユーミンは死んだ友人の気持ちを代弁しているかのように言葉を紡いでいます。
闘病をして、出来る限りのことはやったのでしょう。
「死」は悲しみだけではなく「解放」でもあるのです。
あの子は苦しみから解放され舞い上がるように天に昇って行った…。
もしかしたら、その考えは残された者のエゴなのかもしれません。
あの子には幸せに昇って欲しい、そんな思いが詰まっていたとも考察出来ます。
命をひこうき雲に例えた
死と向き合ってきたあの子
空に憧れて空をかけてゆく
あの子の命はひこうき雲
出典: ひこうき雲/作詞:荒井由美 作曲:荒井由美
その同じ年齢とは思えない彼の大人びた顔を見て、幼い頃から死と向き合って生きてきたのではないかと感じたのだと思います。
だからこそ、ただ死んだことを悲しんでいるのではなく、自由に空をかけることができるようになったと表現しているのではないでしょうか。
ひこうき雲は儚いもの
晴天の日ならば、ひこうき雲はすぐに消えてしまいます。
真っすぐに伸びて短いひこうき雲は、あの子の命と同じなのでしょう。
強く短く生きた命は、まるでひこうき雲のようです。
この歌詞はサビとして最期に繰り返し歌われる部分です。
あの子が空というものに対して、強い憧れを抱いていたことを強調しています。
自由に飛びまわりたいと強く願っていたのでしょう。
あるいは死を覚悟していたあの子は、死んで自由になったら空を飛びたいと思っていたのかもしれません。